過去ログ - P「出来損ないのプロデューサー」
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11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[sage]
2012/11/25(日) 15:20:35.97 ID:1CosP0Qs0
こんな時間にこの道を歩くのは初めてだった。
人ごみの中、彼女は歩く。
ドラマの収録を終えて、そのまま直帰。事務所に寄らないのは収録が遅れてしまったからだ。

「はあ……」

俯いて、ため息ひとつ。
人気が上がれば、アイドルとして彼女に求められるレベルは高くなっていく。
そんな当たり前のことはわかっている。
それは彼女にとって喜ばしいことだ。評価されているということだから。

それでも、都合よく物事が進まないというのは辛いものだ。

今日のドラマの収録にしても、新曲の収録にしても、彼女の仕事には、作る人間とそれを扱う彼女の間で解釈の違いが生まれる。
どちらがどちらになれるはずもなく、互いに一方通行なもの。
そんな時に彼は、彼女に対して的確なアドバイスを送る。
彼女のことを一番理解しているからこそ、時には作り手に対しても進言する。
彼女を作り手に合わせ、作り手を彼女に合わせる。
作り手と彼女の誤差を限りなく0にすること、それが現場での彼の仕事だった。

今の彼女は独りだ。その誤差の修正を独りでやらなくてはいけない。
もちろん作り手の方もアドバイスをくれるが、それはどこか彼女の中で引っかかるというか、言っていることはわかるがいまいち要領を得られないのだ。
明日もまた収録だと思うと少し憂鬱な気持ちになってしまう。

「はあ……」

また、ため息。今の自分の姿を見たら彼はどう思うだろうか?
ふと彼女はそんなことを考えた。
おそらく彼のことだ。
「アイドルが暗い顔しない」とか「ため息をすると幸せが逃げる」といった軽口で自分のことを慰めてくれるのだろう。
そんな情景を思い浮かべた彼女は小さく笑う。
明日のことを今日悩んだって仕方のない話だ。
自分にできることを精一杯する。それだけでいい。
彼女は自分を鼓舞するかのように、頭をあげる。

「えっ!?」

瞬間、彼女は息を呑んだ。
数メートル先、人ごみの中に見覚えのある背中が目に留まる。
彼女は知っている、あの大きな背中を。
いつも自分を導いてきてくれた、それを見間違えるはずがない。
人ごみに流されて消えていく背中。
彼女は走り出した。
ここで見失ったら、もう二度と会えないのではないかという予感がしたから。
人ごみをかき分けて、その背中に向かって力強く叫ぶ。

「――っ!」



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