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17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2012/11/29(木) 21:33:58.60 ID:NexFuiRDO
〜 村長宅 〜

村長「よくぞ来てくださいました」

少女「……ん」

 頷く少女は、漆黒のドレスにその身体を包んでいた。
 背中に流れる長い髪の毛も艶やかな黒を放ち、膝まで届くスカートも黒。
 その下からすらりと伸びる華奢な脚はやはり黒のタイツを纏い、脚の行き着く先には黒い革のパンプス。 厳格な黒を基調とした隙の無い見事な着こなしの少女である。
 しかし、黒一色かと問われればそうでもない。
 胸元で左右に開いたドレスの下には、糊のきいたシワ一つ無い白いシャツが顔を覗かせているし、時折吹く風にふわりと広がるスカートには幾重にも飾られた白いレースが花を開いている。
 このほか頭の左右にて髪を結う乳白色の紐リボン、手先を覆う純白のシルクの手袋など、全身に黒の対比色である白がちりばめられており、上手く黒の威圧感を相殺しつつ少女特有の愛らしさを引き立てていた。

執事「それで、我々に話とは?」

 村長の家の一室へと案内された二人を待っていたのは、十を越える村人たち。
 村人たちは部屋の壁に沿って少女たちを囲むように立ち並んでいる。
 タキシードを着こなす執事は万が一に備え、村人たちに鋭い目つきで威圧を加えながら村長へと訊ねた。
 すると、村長は明らかに狼狽した様子で、自分の禿頭を右の掌で撫で回し始める。

村長「いえ、ワシらはあなた様方に危害を加える気は無い。
 そう警戒しないでくれ。ほら、ささ……どうぞ椅子に腰を掛けて……」

 そう言いながら村長は部屋の真ん中に用意した二つの木組みの椅子を自分は立ったまま勧めてくるが、しかし少女と執事は椅子には目もくれない。
 代わりに、執事は村長へと問いただすような尖った視線を飛ばした。

執事「ほう? 危害を加える気が無い?
 では、なぜ我々をこの村に拘束しているのです?」

村長「拘束だなんて……そんな……」

 執事が語気を強めて言うと、村長はとうとう困り果てたように視線を辺りの村人らに彷徨わせ始める。
 その動きに何事かを企んでいる様子は無い。
 それを見た執事は内心で「ふむ」と頷いていた。
 馬車の中で少女が説明した話では、この村には外部との交流要員がいない。少なくとも、大量の金塊を運用出来るような人材は存在しないとの事だった。
 確かに、もしそんな優秀な人材がいたならば村はもう少しマシになっているだろう。
 また少女は、村人たちには外部の有力な協力者がいない、とも執事に言った。
 いわく、周囲には川や山があり実り豊かな田畑も目につくが、村人たちは痩せこけている。
 これは村人が生活を営む最低限度以上に外部から搾取されているからに他ならない。
 そして少女が到着した際の野盗団である。
 眠っていた少女に代わって執事が見た感じ、村人は幾度か襲撃された事があるような様子であった。(特に村長)
 もしもどこかの領主や貴族の庇護下にいたら、重税を課せられることはあっても、財貨を破壊するだけの野盗団を野放しにはしないだろう。
 要するに、村は頼る相手も無く、商人やら国やらから好き勝手に搾り取られていると少女は見抜いていた。

村長「えと……その、ですな……」

 村人が金塊を少しでも動かそうものならば、寒村が大量の金塊を手に入れたという珍しい情報はあっという間に東西の国に広がるだろう。
 そうなれば守り手もいない村人たちは百戦錬磨の商人たちに、これまたあっという間に金塊を消費させられるのは間違いない。
 下手をすると、聞き付けた国が税金やら徴収やらで村人から財産を一切合財むしり取っていく可能性もある。
 つまり、村人たちは今、外部との交流役、そして世情に長じたアドバイザーを喉から手が出る程に欲しているのだ。
 そして、少女の狙いもそこにあった。

少女『……手始めに、村の相談役として居座り、金塊の運用をしながら、周辺への影響力を、徐々に強めていく』

 それが少女の弁である。

──さすがでございますお嬢様。この私め、お嬢様の御慧眼に感服致しました。

 少女の予想通りに運びつつある状況に、執事は顔が綻ばないように口を引き結ぶ。
 そうするうちに、村長がやっと案件を口に出し始めた。

村長「実は、あなた様方にお願いがあるのです」

執事「ほう? お願い、ですか?」

──来た。

 執事は胸中で笑みを浮かべながら、顔には不思議そうに訊ねるような色を浮かべて平然と聞き返す。
 隣に立つ少女もいつもの無表情ではあるが、少しだけ肩を揺らしたのが僅かに執事の視界に入った。
 すべて、少女の予測した話しの流れである。
 しかし、村長の『お願い』は執事の、そして少女の思い描いた話の流れを完全に決壊させるような重篤なものであった。

村長「実は……あなた様方に、この村の領主になって頂きたいのです」

執事「……は?」
少女「……は?」

 二人の声が綺麗にハモった瞬間だった。


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