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4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2012/11/27(火) 18:07:31.05 ID:/twlZ/wDO
執事「かつて、魔族と人間は戦争をしていました。
 しかし現在の魔王様が権勢を奮うように変わってから、人間との戦争は利あらずという現魔王様の考えにより魔族は人間と休戦。
 それは今も続いています」

 幌つき馬車の御者台から、年老いた白髪の執事が二頭の馬を軽く操りながら声を送って来る。

少女「……ん」

 毛布に包まった少女は眠い目をこすり、離れていきそうになる意識を辛うじて繋ぎ止めながら執事に短く相づちを返した。
 時刻は早朝、それでなくとも丸二日まともに寝ていないというのに、この朝霧混じりの肌寒い外気とふかふかの毛布の暖による内気のバランスは、えもいわれぬ心地よさを生み出す。
 だが、前方の道に視線を注視する執事は眠りに落ちかけている少女の様子に気付かないようで、自分の着ているシワ一つない黒のタキシードを丁寧に払い整えつつ、言葉を続けた。

執事「その後、魔王様は魔界の様々な問題に取り組み、ひたすら内政に腐心しました。
 そのおかげで、今日の魔族の繁栄があるのですが……どうやら、人間側はそう上手くいかなかったようですな」

少女「……ん」

執事「我ら魔族の最大の敵であった『帝国』は、魔族との戦いが終わっても軍事費の縮小が出来なかったようです。
 退役軍人への年金。武器商人との癒着。そして発言権を高めた武官が権力喪失の危機感から反発。
 思い付くだけで枚挙にいとまがありません。
 そして軍事費を縮小出来ないならば戦争を吹っ掛けられる新しい敵を見つければよい、という流れになったのは当然の帰結だったのかもしれません」

少女「……」

執事「そのまま帝国が口火を切る形で人間側は大陸全土で戦争に突入。
 今も人間同士で殺しあっています。
 もしかしたら、現魔王様もこの状況を見越して休戦を……おや?」

少女「……すぅ……すぅ……」

 耳をくすぐるような可愛らしい寝息に気付き、執事が初めて振り返る。
 すると馬車の片隅、幌に背中を埋める形で毛布に包まった少女が眠りに落ちているのが執事の目に映った。
 執事はそんな少女を数秒間、じっと見つめ、やがて小さく息を吐き出すとやんわりと相好を崩してみせた。

執事「今はゆっくりお休みなさいませ、魔王様。
   貴女は我々の希望なのですから」

 執事は前に向き直すと、馬を巧みに操り出す。
 馬車は執事の手腕に突き動かされ地肌剥き出しの道の上を、無駄に揺れを誘って少女を起こさないように、大きな窪みを避けて丁寧に進んで行くのだった。


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