11: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:03:09.94 ID:nlsr789Z0
"蜃気楼"は事あるごとに少年へ話しかけた。
感情云々だけではなく、くだらない内容の話も次第に増えた。
「おお、少年。これはなんだ、なんとィう食べ物だ」
その時ばかりは少年も、いつもに比べれば無感情に聞き入れることができた。
少年「……母さんが作ってくれたお菓子」
「名無しか? 是非また食べたィものだ。甘くて美味ィ。なにより食感が心地ィィ。
こんなに美味しィのにどうして少年は喜ばなィんだ?」
少年「……知らない」
「俺は世界各国の人間を見てきた。中には感情が完全に死んでしまってィる奴もィた。
けれどな、少年のような訳の解らない存在はどこにもィなかったぞ」
「俺が餌としてィるのは人間の欲望に君臨する愛だ。愛を糧に生きてィる。
感情が無ければ人を愛さなィから、俺は奴らの望みを叶えられなィ」
「奴らに感情がなィのはそれなりの人生を送ってきたからだ。
紛争の激しィ国や貧しィ地域では、心の死んだ人間は多ィ」
「しかしここは平和な国だ。ましてや君の家は貧しィわけでもなィ。
更に、君は感情が欠落してィたのに愛する者がィる。これは矛盾してィる筈なんだ」
「心は死んでィないようだが育つべき感情が育ってなィ。
少年、君はどんな過程でここまで生きてきた」
少年「……覚えてない」
"蜃気楼"は大きな溜息を吐いたが、いつか少年の心に感情が満ち溢れるであろうことを期待できた。
一ヶ月居座ったからなのか、少しずつ少年は真っ当な返事をするようになってきている。
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