19: ◆K7HPJB6g7s[sage]
2012/12/06(木) 22:56:49.39 ID:0bpAgyZro
「――ごめんね、京ちゃん」
唐突な咲の言葉に、逸っていた京太郎の心が一瞬で呼び戻される。背筋に、ゾクリとした悪寒が走っ
た。
「カン」
手牌から3つの牌を晒し、咲が右端に寄せる。それはつい今しがた、京太郎が捨てた牌に他ならない。
確信を持った堂々とした手つきで、咲が嶺上牌を掴む。ここまでくると、清澄高校麻雀部の人間であ
れば嫌でも予見できる。
やられた――!
「ツモ。嶺上開花、役牌。2600点の責任払いです。これで私が再逆転して1位かな」
大明槓からの嶺上開花は責任払い。この和了りで咲は28900点、京太郎は28100点となり、咲の逆
転勝利である。
「は、ハハっ……」
京太郎の口から、思わず乾いた笑いが漏れた。それから脱力してずしりと背もたれに寄り掛かる。
対面の咲は、イタズラが成功したような充足感のある顔で首を傾げた。
「残念、でした?」
「い、いや、残念ってか……」
点数にだけ目を向ければ一歩及ばずといったところだが、京太郎は咲との大きな差を見せつけられた
様に思った。先程まであんなに勝てそうだと気が逸っていたのに、終わってみると自分が捲られるのは
必然の出来事であり最初から1位になれる可能性などなかったとさえ思えてしまう。
嶺上開花で和了る時の咲は、そう感じさせる程の魅力のようなものを放っていた。
とは言え、悔しいものは悔しい。
「あ、あーもうなんだよー! 今日こそは勝てると思ってたのになぁ!」
内に湧くモヤモヤとした感情を隠すように、京太郎は大袈裟な動きで天を仰ぐ。
「えへへ、ごめんね京ちゃん。初勝利は次の機会におあずけってことで」
「……はぁ。毎度のことだけど、つくづく恐ろしい奴……」
人懐っこく笑う同級生にそれ以上言い立てる気も起きず、口を突いて出そうになる恨み言を飲み込ん
で京太郎は溜息を一つだけ吐いた。
確かに悔しいには悔しいが、普段から負け慣れているだけあって、京太郎は意外に飄々としている自
分に気が付いた。1位にこそなれなかったものの、2位にはなることができた。それだけでも自分にと
っては大金星だ、とむしろ良い方向に考えて自らを鼓舞する。
「まぁあんなに接戦できたこと自体初めてだし、俺もちょっとは上手くなったってことかな」
よしもう一半荘、と京太郎が気持ちを切り替えようとしたとき、
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