過去ログ - P「君と過ごす1週間」
1- 20
108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/04/10(水) 02:12:46.69 ID:1c5BGqYK0
プロデューサーを膝で寝かせて、どれくらい経ったんだろう。
1時間、2時間……いや、もっとかな?
河川敷で遊んでいた子供は遊び疲れて家に帰ったのかとっくにいなくなっていた。
太陽は大分傾いて、もうすぐこの辺りも暗くなるんだろうな。
それだけの時間は経っているはずなのにプロデューサーはバカみたいに大口を開けて寝ていた。
品の欠片もない。兄貴みたいだ。
うりうり、とっとと起きろ。何度か足、崩してるけど、ずっと動けなくて辛いんだぞ。
何度か頬を突っついてみると、プロデューサーは違和感に反応して顔を一瞬だけしかめる。
でも、その後はまた気持ちよさそうでマヌケな寝顔に戻る。

「プロデューサー」
「……」
「ねえ、プロデューサー……自分、いつも完璧とか言っているけど、本当は完璧なんかじゃないんだ。完璧だ、完璧だ、って自分に言い聞かせているだけなんだ」
「……」

こんな時に自分は何を言っているんだろう。聞こえているはずないのに。
例えるなら、ペットに愚痴る感じのアレ。反応が返ってくるわけでもないのについつい喋ってしまう。

「だって、そうでしょ? アイドルに失敗は許されないんだ。オーディションに負ければ、勝ったアイドルと差がついちゃうし、ライブで失敗すれば、ファンはがっかりして自分のファンをやめちゃうかもしれない。よく大人は失敗したっていいなんて、カッコイイこと言ってくれるけど、失敗しないに越したことはないでしょ? 黒井社長は自分に言ったんだ。失敗する人間は弱いって。失敗する位なら、どうして最初から失敗しないほどの努力をしないのかって。努力が足りない、だから失敗する。そんな雑魚は961プロには必要ない、そう言ってたよ。うん、間違ってはいないと思うんだ。だから、自分もいっぱい努力して、失敗のない完璧なアイドルでいようとして、その結果が今の自分なんだよ。でもさ、……自分、まだ15なんだよ。いや、誕生日は過ぎてるから16か。誰にも祝ってもらえなかったけど。とにかくさ、自分はまだ子供なんだよ。そんな自分が自分に自信を持てるかって聞かれたら微妙なんだよ。別に自分の力に自信がないわけじゃないんだ。ただ、自分より凄いものを見せられると、その自信が崩れそうになっちゃうんだ。この間の魔王エンジェルとのオーディションもそうだった。もし、自分が本当に完璧で強い人間なら動揺なんかしないで、しっかりと完璧なパフォーマンスを出来たはずなんだ。でも、自分はダメだった。プロデューサーがいてくれなきゃ、潰れてた。自分は完璧なんかじゃない。失敗することが、傷つくことが怖い……ただの臆病者なんだ」

心の中身を膝に乗ってる顔に向かって吐き出す。
もちろん返事はない。何か期待しているわけでもないけどさ。

「臆病者か……」
「えっ?」

突然の言葉、それは自分のすぐ下から聞こえてきた。プロデューサーだ。

「悪い。突っつかれる少し前から起きてた」
「だったら起きてよね」
「膝枕が気持ちよくてさ」
「そう……でも、プロデューサー、盗み聞きは酷いよ」
「響がベラベラ喋ったんだろうが」
「それもそっか」
「……」
「……ねえ、何か言ってくれないの?」
「それを考えているんだよ。あのさ……響」
「何、プロデューサー?」
「こういう言い方だと身も蓋もない言い方かもしれないけどさ。あんまり重たく考えない方がいいぞ」

驚いた。まさか、ここまでアッサリとしたものが返ってくるなんて。本当に身も蓋もない答えだ。

「失敗しちゃいけない。それはわかる。でも、何かをする前から失敗なんていうマイナスなことを考えるのは疲れないか?」
「それは……」
「響が沖縄から東京に上京する時、響は失敗することなんて考えたか?」
「ううん。そんなこと考えてなかった。絶対にトップアイドルになってやるぞっていう気持ちでいっぱいだった」
「そうそう、そういう気持ちが大事だ。失敗しちゃダメだって、自分を追い詰めるのは間違っていると思うぞ。それに響には、失敗しちゃダメだ、なんて言葉よりも、もっと似合っている言葉があるじゃないか」
「自分に似合っている言葉?」
「そう、「なんくるないさ」っていう言葉がさ。これって、なんとかなるさっていう意味なんだろ?」
「うん……」
「だったら、それでいいじゃないか。先のことなんて、結果なんて終わってみなければ誰にもわからない。でも、どんなことだって、きっと……なんくるないさ」

プロデューサーは自分に向かって、ニカッと笑った。
なんくるないさ……か。
いつも当たり前のように使っていたから気づかなかったけど、不思議な暖かさと力強さのある言葉だ。
そうだね、自分ならなんくるないよね。
あっ……

「わかったよ、プロデューサー」
「?」
「shiny smileの最初のサビの歌い方。余計なことを考えずに、「なんくるないさ」の気持ちで走り抜く気持ちで歌えばいんだ!」
「……そうだな。後先考えないで、まずはやってみる。そういう思い切りの良さっていうか、猪突猛進というか……とにかくそういう表現で歌えばいいと思う」
「なんくるないさ……えへへ、見つけたぞ、自分の色!」
「違うな。薄められてしまった響が自分の色を取り戻したんだ……よっと」

プロデューサーは、上体を起こして立ち上がる。
自分の膝から離れるプロデューサーが、ちょっとだけ名残惜しかった。

「それじゃあ、そろそろ帰るか。結局、服屋を紹介してやったぐらいか。悪かったな、午後は俺のせいで潰してしまって」
「ううん、気にしてないよ。今日は付き合ってくれてありがとう、プロデューサー」
「そうやってお礼を言ってもらえるのは2回目だな」
「クスッ……」
「なんだよ?」
「ううん、なんでもない」

だって、プロデューサー、自分が「ありがとう」を3回言っていることに気づいてないから。何だかおかしくて、笑っちゃう。
プロデューサーは、首をかしげているけど教えないでおこう。
こうして、プロデューサーと過ごす5日目が終わった。
家に帰ったら、プロデューサーに選んでもらった服、もう一度着てみよう。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
171Res/177.48 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice