141:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/05/14(火) 03:33:26.54 ID:haHV23K+0
俺は響と肩を並べてゆっくりと歩く。
いつもの帰り道……だけど、それも今日で終わりだ。
約束の7日目、今日で響との関係は終わるのだ。
思い出してみれば、俺はひたすら響の凄さに驚いていた。
とは言っても、響はそういう力を持っているから仕方ないことなのだが。
「今日はありがとうね、プロデューサー」
響は俺のことを見ず、歩きながら言う。
横顔を覗いてみる。いい顔をしている。
こう言うと怒られるのだろうけど、春香に似ていた。
側にいてくれると安心できる……パートナーとして信頼できる感覚だ。
響と関わった時間は春香に比べればかなり短い。
なのに、俺の中でこういう感覚が生まれるのはそれだけ響と密のある時間を過ごせたということだろう。
「どうだった、響? この七日間、765プロのやり方を体験してみてさ」
「う〜ん。それはまだ自分にはよくわからないかな」
「……えっ?」
マジで!?
「くすっ、冗談だよ。765プロのやり方は、この一週間でよ〜くわかったからさ!」
「そ、そうか……脅かさないでくれ」
いたずらっぽく笑う響に、おもわず安堵の息が漏れる。
流石にこの一週間で何も感じるものが無いと言われたら心が折れる。
「なあ、響……やっぱり今からでも黒井社長の元を離れようとは思わないか?」
響は765プロのやり方の方があっている。この一週間でそれを強く確信できた。
だからこそ、765プロとは真逆の961プロのやり方では響は輝ききれないと思う。
これほどの才能を持つ女の子がハッキリ言ってもったいない。
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね。自分、このまま最後までやってみるよ!」
「響……」
なんとなく断られるのはわかっていた。
我那覇響とは、こういう女の子だ。
自分で決めたことは曲げない。
一度961プロでやると言ったら、やる。
筋を通したいのだろう。清々しいほどにまっすぐだ。
shiny smileの「妥協しない、追求したい」という歌詞は本当に響のためにあるような気がする。
もし春香に会わなかったら、もし響が765プロにいたら。
……やめよう、今の俺には春香がいるじゃないか。
俺は響に近づいて、そっと響の手をとる。
「?」
「忘れ物だ」
俺はスーツのポケットから小さな箱を取り出し、響の手に渡す。
響が落とした携帯の裁縫セットだ。
「それじゃあ……」
渡すだけ渡して、俺はスッと踵を返し歩き出す。
何か別れの言葉を言うべきか迷ったがやめた。余計に名残惜しくなってしまう。
いつもは響の方から帰っているから、最後の日くらいは俺の方から帰ろう。
「765プロ!」
遠くから響の声が聞こえてくる。
「誰とは言わないけどさ―! この一週間、自分にはプロデューサーがついたんだよ! 自分にピッタリな曲をくれたり、オーディションで一緒に戦ってくれたり、買い物に付き合ってくれたり、色んなことを教えてくれたり、レッスンの時とかちょっと怖かったけど……すっごく、すっごく楽しかったよ! だから、だからさ!」
響の声は震えている。それでも響は俺にプロデューサーへの気持ちをぶつけてくる。
「そんな最高で完璧なプロデューサーに会ったら、伝えておいて! 自分、我那覇響は、にふぇーでーびる……ありがとうって、言っていたって!」
ああ……にふぇーでーびるって、そういう意味なのか。
「そうか……そのプロデューサーも今の響の言葉を聞いたら、すごい喜ぶだろうな!」
俺は響に背を向けながら、そう言ってやった。
にふぇーでーびる……響。
君と過ごした一週間は、暖かくて優しいお日様のようなshiny smileは、ずっと忘れない。
これが俺の長いようで短かかった響との一週間の終わりだった。
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