146:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/05/18(土) 03:42:35.94 ID:xQyDWfw90
響との一週間を終えた俺は、これまで通り春香のプロデューサーとして働いていた。
そんなある日のことだ。
俺が自分のデスクで仕事をしていると、事務員の音無さんが声をかけてきた。
「プロデューサーさん、お荷物が届いていますよ」
「俺に……ですか? ファンから春香へじゃなくて?」
「はい。プロデューサーさん宛です」
765プロに俺宛で差出人不明の荷物が届いた。
荷物とは言っても、茶色い小さな封筒だ。軽い。
封を切って中身を出してみると、それは一枚のCDだった。
「これ、なんのCDでしょうか?」
「さあ? 聞いてみないことには。音無さん、会議室にラジカセありましたよね?」
「ええ、どうぞ使ってください」
・
・
・
会議室には誰もいなかった。
普段だったら、ここにこもって音楽を聞いているアイドル候補生が一人いるけど、今日はいないみたいだ。
電気も点けずに聞いている時があるくらいに熱心だから、いたら家で聞こうと思ったがその心配はなさそうだ。
「ラジカセ、ラジカセ……っと。おっ、あった」
見つけたラジカセにCDを読み込ませると、特徴的なイントロと共に響の歌声が聞こえてくる。
shiny smileだ。
それは7日目のオーディションで合格した番組で放送されるはずの楽曲だった。
俺が自宅で録画した番組を見た時、テレビに映る響はshiny smileではなくオーバーマスターを披露していた。
恐らく収録時に黒井社長が横槍を入れたのだろう。
もしかしたら、俺と響の一週間の行動なんてとっくにバレていたのかもしれない。
shiny smileが終わり、再生が止まる。
「うん……やっぱりいい曲だ」
もう一度、再生ボタンをおして一から聴き始める。
shiny smileは元々、春香のプロデュースで使うかもしれなかった楽曲だ。
作詞家も、歌詞に「お気に入りのリボン」とか「転びそうでも」とか春香を意識したものになっている。
だが、CDを聞けば聞くほどに、この曲が響のために作られたのでは?と錯覚してしまう。
響はshiny smileに、自分の色をつけて響だけのshiny smileを作り上げた。
もちろん春香だって、shiny smileを歌えば春香の色のshiny smileを作り上げるだろう。
では、shiny smileを響の色の上から春香の色で塗り替えることができるか?と聞かれたら、俺はこう言うに違いない。
無理だ。
響の言葉を借りるなら完璧。響のshiny smileはそういう出来だ。
「春香と作詞、作曲家さんには悪いけどshiny smileはもう使えないな」
このCDは大切に持っておかないとな。
俺と響がプロデューサーとアイドルという関係だった証なわけだし。
俺はCDをラジカセから取り出して、会議室を後にする。
ふと、窓から空を見上げてみると太陽が穏やかに輝いていた。
……がんばれよ、響。
俺も響に負けないくらいに、春香を輝かせるからさ。
171Res/177.48 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。