65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/02/24(日) 04:02:59.29 ID:us3ymKBO0
「そっか……じゃあ、自分は魔王エンジェルに勝ったわけじゃないのか」
俺の話を聞いた響は、納得した様子で自嘲気味に笑った。
「浮かれて……馬鹿みたいだな。765プロ、自分のこと笑っていいぞ」
「笑えないよ。それに魔王エンジェルの結果は一位だったけど、俺にとっては響のパフォーマンスが一番よかった」
「そんなんじゃ意味ないんだよ!」
俺の言葉に響が怒鳴った。
「自分は完璧なんだ! だから負けちゃいけないんだ! 誰からにも認められる凄い結果を出さなくちゃいけないんだ! 765プロ一人にそう思われたって意味ないんだよ!」
「響……」
「悔しい……悔しいよ……765プロ」
震える声で俺に訴えてくる。
余程、魔王エンジェルに負けたことが堪えているのだろう。
響の目には涙が浮かんでいた。
目の前でアイドルが泣いている。
なら、俺のすることはなんだ?
決まっている。俺はプロデューサーだ。
泣いているまま放っておくことなんて出来ない。
「響は魔王エンジェルのパフォーマンスを見て、どう思った?」
「……怖かった」
「怖かった?」
「うん。あんなとんでもないパフォーマンスをやられて、自分は勝てるのかなって思った」
確かにあの凶暴なまでのパフォーマンスは、他のアイドルを恐怖させるものだ。
「でも765プロ、自分……怖かったって思った以上にね……凄いって思ったんだ」
「響はあのパフォーマンスを見て凄いって思ったんだな……良かった」
「良かった?」
「ああ……魔王エンジェルのパフォーマンスをそう思えるなら、響はもっと強くなれる」
「えっ?」
キョトンとする響。どういうことか分かっていないようだ。
「言葉の通りだよ。いま響が俺に向かって吐き出した想い。それがある限り、響はまだまだ強くなれる……絶対に」
自分より優れた人間がいる時どうするか。
その人を尊敬するか。
その人を妬むか。
妬む人間はそこで終わりだ。もう精神的に負けている。だから、相手を貶すことしか出来ない。負け犬の遠吠え、惨めなものだ。
だが、尊敬する人間は違う。確かに端から見れば妬む人間と同じ敗者かもしれない。でも、尊敬する人間は相手を目標にすることが出来る……言ってみれば向上心があるということだ。
春香が響のことをテレビで初めて見た時、春香ははしゃいでいた。同じ新人である響の実力を純粋に褒め称えた。
それがきっかけで、春香は響のことを目標にするようになった。
響の背を追いかけて、春香はAランクアイドルにまで上り詰めた。
「響は魔王エンジェルのような誰からにも認められる凄いパフォーマンスが出来るようになりたいんだろ?」
「うん……自分もあんな凄いパフォーマンスが出来るようになりたい!」
力強い返事が返ってくる。
「なら、魔王エンジェルに並ぶことがトップアイドルになる前に、響が達成しなくちゃいけない目標だな」
「並ぶ? 勝つじゃないのか?」
「壁を乗り越えるためには、まず壁に手が届かなくちゃダメだろ?」
「そっか……そうだよね。魔王エンジェルにランクとか売上じゃなくて実力で並ぶ……それが自分の目標」
「そうだ。響の目指す目標だ。後はそれに向かって」
「妥協しない、追求したい?」
「そういうことだ」
隣から響の笑い声が聞こえた。もう泣いていなかった。
春香が教えてくれた。目標がある限り、人は成長し続ける。
だから、響だって……きっと!
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