27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/12/24(月) 02:34:29.70 ID:g/rAwmazo
複数名の魔法少女による襲撃。それはシステムの外側で為された事であり、またシステムによって為された事でもあった。
美国織莉子の創設したシステムは魔法少女の相互扶助を一応の目的としてはいたものの、究極的には魔法少女を管理し統制するためのシステムだと言える。
管理、それは登録と認証によってしか為されない。
織莉子のシステムは、言うなれば魔法少女に魔法少女としての戸籍を与えるようなものだ。
それはかつて杏子によって死に追いやられた者、その友人或いは本人に、かつて自分たちに危害を加えた悪しき者が誰であったのかという事の特定を許す結果となった。
その夜も、杏子はいつもの通り実家――教会のホールで祈りを捧げていた。
さやかが死んで以降欠かすことのなかったこの礼拝は、例の事が明るみになって以来その意味を変えつつあった。
さやかの心の死後の安寧を祈るものから、自らの過ちを懺悔し手に掛けた魔法少女たちの魂の救済を祈るものへ。
そして終いには、それは世界全体の魔法少女たち安寧を願ってのものになった。
その祈りの最中に、襲撃は為された。
ほむらは巴マミからの連絡を受けて教会へと向かった。
そこには既に瞳に色の乗っていない千歳ゆまを抱え怒りを顕にするマミと、白い顔で身体を震わせる織莉子、その肩を支えるキリカが集結していた。
重く大きな扉を開けると、濃い血の匂いがむわっと襲いかかってきた。
血の匂い自体は慣れている。自分のものも他人のものも、繰り返す過程と魔獣との戦いの日々で散々に嗅いできたからだ。
だが今日のこれはあまりにも濃かった。
教会、という閉鎖空間の中で臭気は籠もり鬱積し、吐き気すら催させる強烈なものへと成り果てていた。
あるいはそれが杏子の血、恐らくは死んだ彼女のものであるという事実が、余計ほむらにそう感じさせたのかも知れない。
ぷちっ、という音がした。ブーツの裏で柔らかな"何か"が爆ぜた音。
聖堂奥に祀られる聖母像の真ん前を爆心地として、血と肉と骨とが放射状に飛散していた。
浮世離れしたその凄惨な光景を脳が受け付けようとしないためか、頭のどこかでその散らばった肉がマグロの叩きのようにも思われた。
古く、それでいて荘厳な祭壇の上に見慣れたものが置いてあった。
けれどそれは見慣れた格好をしてはいなかった。
空っぽの眼窩と削ぎ落とされた肉。
頬肉が裂かれているせいで、両方の奥歯が露出してしまっている。それが杏子の頭部だと辛うじて分かったのは、紅く長い髪が未だ残されていたからに過ぎない。
原型を留めていた部位はそこだけだった。あとの部位、四肢も胴体も、全てが刻まれ潰されてミキサーの中身をぶちまけたような有様になっていた。
巴マミは断じ、糾弾した。織莉子はこの襲撃を知っていたのだと、知っていて止めずに杏子が殺されるのを容認したのだと。
怒りと悲しみと、その他の色々な感情がごちゃ混ぜになってわけの分からないことになった瞳で、マミは織莉子を責めた。
客観的に視て、織莉子は本当にこの件については関知していなかったようだったが、織莉子自身は何も言わずに俯いているだけだった。
誰が事を起こしたのかは分からず終いだった。
地域の魔法少女たちは誰もが口を閉じて、何も語ろうとしない。もしかしたら全員が何らかの形で関与し、それが故に口を閉じるしかなかったのかも知れない。
かつての杏子しか知らない者たちにとって、佐倉杏子という魔法少女は「悪」そのものでしかなかったのだから。
これがどんな残酷な形で命を奪われようと、彼女らにしてみればまったく問題のない事だったのだろう。
いずれにせよ、これが決定的な要因となって美国織莉子と巴マミは袂を分かった。
織莉子はL.O.Lを発展させるために、活動をさらに積極的に行った。
マミはL.O.Lに籍は置きつつも不干渉の立場を貫き、地域の魔法少女たちの訓練に当った。
千歳ゆまは巴マミの薫陶を受け、10-20年代最高の魔法少女の一人として名を馳せた。それはまるで狂乱をそのまま行為に当て嵌めたかのような戦いぶりだったと聞く。
そして、暁美ほむらは――。
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