47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/12/30(日) 23:03:08.37 ID:dlefWGSko
***
ホテルへの道すがら、ぽつぽつと雨音が響いたかと思うと、それはたちまち勢いを増して水のカーテンになった。
ゲリラ豪雨だ。今や亜熱帯さながらの気候な東京では、上昇気流のあおりを受けて時折こういった集中豪雨が発生することがある。
この雨はほむらにとって僥倖そのものだった。頭のてっぺんからつま先までをもくまなく濡らすこの雨は、止め処なく溢れる涙を流し打ち消してくれる。
ほむらは泣いていた。杏子を想って、泣いていた。
幾度となく葛藤した。自分は、まどかのことを愛しているはずなのに、なぜこうも杏子の笑顔が頭にちらつくのだろうか、と。
何度も何度も反問した。自分にとって、佐倉杏子とは一体何なのかと。
頼れる戦友、それはもちろんだ。同士、友達、仲間、全て正解だ。だがほむらが欲したのはそんな関係ではなかった。
彼女の笑顔が胸を高鳴らせた。言葉が、菓子をつまむ指の先が、汗ばんだうなじが、どうしようもなくほむらを惹き付けた。
いったいこの感情はなんだ。
自分は、杏子とどう在りたいというのだ。
自分にはまどかという最高の友達が、親友がいるというのに、なぜこうも彼女に心惹かれてしまうのか。
ほむらは自問自答を繰り返した。
そしてそれに対する最適解を導き出した時、既に杏子はこの世の人ではなくなってしまっていた。
ぐちゃぐちゃになった杏子の遺骸を前にして、ほむらの心はひどく空虚だった。喪失感、まるでナイフで深々と抉られたかのようなクレバスが、ほむらの内に出来上がった。
――ああ、そうだ。私は、杏子がすきだった。本当なら男の人に抱くべき感情と同じものを、私は杏子に向けていたんだ。
散々揶揄したあの二人の関係を笑えないわね。もう、素直になろう。私は、杏子がすき。だいすき。もう、友達ではいられないの。
ねぇ、眼を開けて、私の想いを聞いてちょうだい。気持ち悪がっても良いから、とにかく、私の想いを知ってほしいの。
だから、ね?お願い、杏子。眼を、あけて――。
どんなに語りかけたところで、佐倉杏子のからっぽになった頭蓋骨は何も応えなかった。応えられるはずがない、佐倉杏子は死んだのだから。
生きながら身体を刻まれ、潰され、円環の理に導かれる事すら許されず、かつての彼女自身の家で赤黒い染みになった。これ以上ないくらい確実に、佐倉杏子は死んでいた。
そしてそんな惨たらしい死が齎される引き鉄となったのは、美国織莉子の構築したシステムだった。
ほむらは美国織莉子を憎んだ、呉キリカを恨んだ。
たとえ死の直接の原因が杏子自身によるものであろうと、ああまで悲惨な死が、あの杏子に、清らかで信仰心に溢れた彼女に、与えられて良いはずがない。
織莉子のシステムが、織莉子が、彼女を死に追いやったのだ。それは絶対に、許されざることだった。
仲間たちの傍には、もうおられなかった。見滝原には、もういられなかった。嫌でも思い出してしまうからだ、あの大事な人たちのことを。
255Res/207.95 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。