11: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:25:06.27 ID:nzTAcqmZo
美希ちゃんは言うだけ言って、ころんとソファで眠りはじめます。
セパレートの向こうで、あずささんと律子さんが新曲のミュージッククリップの話をしているのが聞こえてきました。
「あずささんは、余りにも喪服が似合いすぎるんです」
12: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:25:37.60 ID:nzTAcqmZo
「雪歩、雪歩」
誰かが私を呼んでいます。きれいなメゾソプラノ。あたたかくって、やわらかくって、ずっとここでこうして、その声に包まれていたい。
13: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:26:42.82 ID:nzTAcqmZo
「いやじゃ、ないです」
でもどうして、と、もう一度続けることはできませんでした。
四月末のライブまで、あと二月ないくらい。
14: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:27:08.91 ID:nzTAcqmZo
「夜空は曇天……シチューの泡、雲のみどろが……」
隠喩のような歌詞を、口ずさみます。
恥ずかしい、とは違う。照れくさい、わけでもなかった。
15: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:27:43.59 ID:nzTAcqmZo
四条さんは……不思議な人です。
不思議な人が近くて、私は、恐怖に似た感情を抱き、そのことにひどく狼狽しました。
四条さんは、もっと、だれからも遠い、そんな風に思っていたのです。きっと、それは、私の憧れが、勝手に作り上げた四条さんで、四条さんは、もっと、きっと……。
16: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:28:10.11 ID:nzTAcqmZo
翌日は、私は午後から仮録、四条さんはインタビュー記事一枠だけ。この日を逃せばチャンスはありません。
タイミングを見計らって、茶器を片づけ、月刊ラーメンなる謎の情報誌に読みふける四条さんの隣に座ります。
「しっ、し、しし四条さんっ」
17: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:31:10.94 ID:nzTAcqmZo
ころん。身長の高い四条さんは、真横に倒れるようにして私の脚に頭を乗せて。思っていたよりも頭蓋は重く、豊かな銀色の髪が流れては、絡みつきます。少し身じろぎして、形のいい頭をおなかに抱きかかえるように収めます。
「……」
18: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:32:19.46 ID:nzTAcqmZo
「あの」
「……雪歩」
19: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:32:58.78 ID:nzTAcqmZo
事務所のドアの開く音で、一気に世界が発破を食らいます。
「おかえり、春香ちゃん」
「ただいま、雪歩。貴音さんと何してるの?」
20: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 13:04:48.37 ID:nzTAcqmZo
2
『あゝ 窓に あゝ オーロラ
眼を見張れ今は 夜が歌うとき』
21: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 13:05:21.14 ID:nzTAcqmZo
『サイレン uh- 時が止まるよ
サイレン uh- あとわずかで――』
入れ替わり、立ち替わり、みんながステージに走り出ます。プロダクションのみんなと、観客のみんなと、あと、それから、何かわからないもの。気配とか、空気とかテンションとか、そういう言葉で表される、わからないもの。
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