8: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:22:03.66 ID:nzTAcqmZo
こくん、喉が動くのに、多分、私は見とれていました。
「正月菓子ですね」
「頂き物なんです。少し、余っちゃいそうだったので」
9: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:22:37.09 ID:nzTAcqmZo
「これよりレッスンの時代です」
半期に一度の、定例ライブが近付いて、レッスン内容が基礎力から本番形式に変わってくると、トレーナーさんと一緒に、プロデューサーが付き添うことが多くなりました。
プロデューサーの一風変わった演出に美希ちゃんが大ウケして、律子さんなんかは初めこそ困っていたようですけれど、そのやり方で結果がついてきているのだから、と、最近では大分協力的になってくれているみたいです。
10: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:24:32.20 ID:nzTAcqmZo
それから、私を傷つけないように、と、何重にも言葉を重ねてくれました。確かに、この思慕の情に、最近の私はとらわれすぎていたのです。プロデューサーは、仕事のために、という言葉で、どつぼにはまってしまいそうな私をとりあえず掬いあげてくれたのでしょう。
「仕事場は……タブー」
11: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:25:06.27 ID:nzTAcqmZo
美希ちゃんは言うだけ言って、ころんとソファで眠りはじめます。
セパレートの向こうで、あずささんと律子さんが新曲のミュージッククリップの話をしているのが聞こえてきました。
「あずささんは、余りにも喪服が似合いすぎるんです」
12: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:25:37.60 ID:nzTAcqmZo
「雪歩、雪歩」
誰かが私を呼んでいます。きれいなメゾソプラノ。あたたかくって、やわらかくって、ずっとここでこうして、その声に包まれていたい。
13: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:26:42.82 ID:nzTAcqmZo
「いやじゃ、ないです」
でもどうして、と、もう一度続けることはできませんでした。
四月末のライブまで、あと二月ないくらい。
14: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:27:08.91 ID:nzTAcqmZo
「夜空は曇天……シチューの泡、雲のみどろが……」
隠喩のような歌詞を、口ずさみます。
恥ずかしい、とは違う。照れくさい、わけでもなかった。
15: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:27:43.59 ID:nzTAcqmZo
四条さんは……不思議な人です。
不思議な人が近くて、私は、恐怖に似た感情を抱き、そのことにひどく狼狽しました。
四条さんは、もっと、だれからも遠い、そんな風に思っていたのです。きっと、それは、私の憧れが、勝手に作り上げた四条さんで、四条さんは、もっと、きっと……。
16: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:28:10.11 ID:nzTAcqmZo
翌日は、私は午後から仮録、四条さんはインタビュー記事一枠だけ。この日を逃せばチャンスはありません。
タイミングを見計らって、茶器を片づけ、月刊ラーメンなる謎の情報誌に読みふける四条さんの隣に座ります。
「しっ、し、しし四条さんっ」
17: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:31:10.94 ID:nzTAcqmZo
ころん。身長の高い四条さんは、真横に倒れるようにして私の脚に頭を乗せて。思っていたよりも頭蓋は重く、豊かな銀色の髪が流れては、絡みつきます。少し身じろぎして、形のいい頭をおなかに抱きかかえるように収めます。
「……」
18: ◆3feiQFueVc[sage saga]
2012/12/26(水) 12:32:19.46 ID:nzTAcqmZo
「あの」
「……雪歩」
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