177:杏子編 ◆KbI4f2lr7shK[saga]
2013/07/25(木) 23:40:14.50 ID:6JfrGomF0
「私ね……杏子に、マミさんに……美樹さんに逢えて良かったと思うよ」
あたしを抱き締める腕の力が強くなる。身体も震えていた。
目を閉じて、共に過ごした時間に想いを馳せる。別れが辛いのは、その時間が幸福だったからだ。
出会わなければ良かったなんて……酷い考えだよな。
「バカ言うんじゃねぇ。後悔なんか、するわけねぇだろ」
あたしの声も震えていた。分かっているけど、精一杯の強がりを逝く妹分に見せてやる。
「でもさ、ほむらは良かったのか? こんな最期で」
ずっと眠っていて、目覚めて一年も満たない期間で消えていく。それで本当に良かったのか? 看取るのがあたし一人で良かったのか?
ほむらは顔を上げる。涙を零して、顔をくしゃくしゃにして、それでも笑っていた。
「後悔してないよ?」
「……神様になるんだろ? つれぇぞ?」
まどかは誰の記憶にも残らないと言う。その立場を代わるんだ……どれだけ孤独な戦いが待ち受けているのか。想像を絶する。
「そうだね。でも私はまどかに生きて欲しいから」
それはあたしたちがほむらに向ける気持ちと同じなんだけどな。苦笑してしまう。
でもきっとほむらも気付いているだろう。ほむらも苦笑していたから。
「なら、最後までやってみろよ」
これは残されたあたしたちへの贐にもなるんだからさ。
「うん!」
良い笑顔だ。ほむらがあたしに時々見せていた、無邪気な笑顔。不意打ち過ぎて……あたしまで笑ってしまった。
あたしはコツンと額同士を合わせる。出合い頭によく行っていた儀式。体調を誤魔化されないようにって、あたしが始めたほむらの熱測定。
夜風に当たり続けていたせいか、少し冷たかった。
「こんな役目押し付けてごめんね、杏子」
再びほむらが肩の後ろに顔を埋める。互いに熱を確かめるかのように、しっかりと抱き合った。
今度はあたしがほむらの頭を撫でてやる。ほむらはあたしが撫でると、いつも嬉しそうに笑っていたから。
「『ごめん』は――」
「分かってる。今までありがとう、お姉ちゃん」
満面の笑顔を最期に、ほむらは無数の光の粒となって消滅した。ほむらだった光は空へと溶け込んでいった。
……はえぇよ。こっちが礼を言う暇無かったじゃねぇか。
ほむらが消えた空にあたしは心の中で文句を言う。涙が零れるほどに、広がる夜空は綺麗だった。
神様(まどか)。あんたを恨んでいるなんて嘘だ。
ほむらはあたしに大切な想い思い出させてくれた。
後悔なんてしていない。本当は感謝してるんだ。あんたの計らいに。
ありがとう……ほむらに逢わせてくれて。
もう一人の妹を……ありがとう。
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