過去ログ - エルフ「……そ〜っ」 男「こらっ!」 2
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5:吟遊詩人[saga]
2013/01/12(土) 01:44:47.18 ID:5Gk1JVhz0
忘れられない女性がいた。
想いを告げ、僅かな時といえど心を通わせた彼女でなく、
心の平穏を保つために身体を重ねた彼女でもなく、
ただ、何も言わずに傍にいて、笑顔を向け続けてくれた女性がいた。
思い返せば懐かしく、色あせずに蘇る彼女との記憶。けれど、そこに映る自分はいつも辛辣な態度をとってばかり。そんな過去の自分に対して思わず自分自身を殴りたくなる衝動に何度も襲われる。
けれども、そんな自分の態度にも不満を口にせず、気まぐれに向けた優しさに大げさに喜ぶ彼女の姿にどこか申し訳ない気分を抱き、当時の自分は居心地が悪くなった。
素直になろう。そう思って、一歩を踏み出そうとする。だけど、己の過去がその一歩を踏み出すことを拒絶した。
停滞する毎日。答えを出すことをずっと保留し続け、多少の居心地の悪さを感じながらも、平穏な毎日を過ごせる今を選択したあの時。
いつだって別れは突然訪れた。手を伸ばして掴んだのは空虚。想い伝うこと叶わず、答えを出せなかったことへの後悔が己を縛った。
次こそは間違えない。何度目になるかわからない決意を胸に、新たな一歩をついに踏み出した。
その後、一人の少女との出会いを経てとうとう己の求めた最高の結末が訪れた。
己の前には大切な仲間たちが笑顔を浮かべて並び、隣には幸せそうに手を繋ぎ、自分を仲間たちの元へと引っ張る異種族の少女の姿がある。
手に入れた平穏。信頼する仲間との絆。そして、愛すべき少女との日常。
幸福と呼ぶにふさわしい繋がりや日々をようやく自分は手に入れた。
そんな中、ふと後ろを振り返ればそんな幸福を掴むために自分を支えてくれた人々の姿が見えた。
両親や友人、そして妹。さらにかつての仲間たちや心を通わせあった女隊長の姿。皆、成長し前へと進んだ己を祝福するように笑顔を向けていた。
ここで、ようやく気がつく。これは夢だと。自分の脳が都合よく見せている幻だと。けれども、そんな幻でも寂しげな表情を浮かべ、時には恨み言を述べて己を責めていた今までとは違い、こうして笑顔を向けてくれているということは少しは自分の心にも変化があったということだろう。なんて都合がいいと思いながらも、夢なのだからいいじゃないかと勝手に自分を納得させる。
そうして、別れを告げた人々から視線を外し、幸せの象徴である今に目を向けようとする。
だが、その視線は過去と今、その狭間にたった一人で立ち尽くす一人の女性を見て止まった。
女性が浮かべる表情は複雑だった。自分が幸せを掴んだことに対し祝いながらも、自分がその輪にいないことに対する寂しさを感じさせた。
自分の隣に立ち、手をつなぐ少女に祝福の微笑みを向けながら、己の手を一瞥し、隣に立って手をつないでいるのが自分ではないことに悲しみ、少女に向かって僅かな羨望を見せている。
その姿を見て胸にチクリと刺が刺さったように痛みが走った。それは時間とともに痛みを増し、次第に呼吸をするのも困難になっていった。
伝えられなかった言葉を口にしようと必死に言葉を紡ぎ出す。けれどもそれは彼女の元へと決して届かない。
たった一人でこちらを見つめる孤独な彼女の身体を抱きしめようと後ろに向かって走り出す。だが、彼女との距離は一向に縮まらない。
当然だ。彼女はもはやこの世にいない。この世界から消えたものの元へ行くのなら自分もまたしを迎えなければならないのだ。
やがて、走り続ける自分を夢から覚ますため光の渦が身体を引っ張り始めた。だが、それに抗うように必死にその場に踏みとどまり、遠くで己を見つめ続ける彼女に向かって手を伸ばし続ける。
だが、永遠ともいえる二人の距離は最後まで縮まることなく、とうとう自分は光の渦へと引きずり込まれた。その最中、最後に一言彼女に向かって言葉を叫んだ。彼女の生前、最後の最後まで伝えることができなかった言葉を。

「愛してる。君を、愛していたんだ。旧エルフ!」

その言葉は決して彼女に届かない。そう知りながらも叫んだ。

……そして、僕は夢から覚めた。


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