過去ログ - 【画像で】ss練習用スレ【お題】 -SS速報VIP

過去ログ - 【画像で】ss練習用スレ【お題】

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21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga　sage]
2013/02/08(金) 02:51:23.13 ID:vme21wzt0
>>15みて適当に思いついたのを使って硬めの地の文の練習
参考にしたいんで皆も地の文たくさん書いてくれむしろそっちの活性化が目的だが
何となく初めて一時間半かかった割にぐだぐだorz
それと長くてごめん

○
　　その時男は心の中で神に自分の罪を懺悔していた。
木の陰に身を潜める彼の傍を、のそりのそりと何かを探しているかのように、
男の身長の五倍はあろうかという巨大な『怪物』が通過していく。
間違いない。アイツは私を探しているんだ。彼はそう確信していた。
彼と『怪物』が出会ったのは彼がまだ年端も行かぬ子供だった頃である。

○
　　彼はその土地の領主の三男坊として生まれた。
日々あくせく働いているのに、
その日の食事にも満足にありつけない農民層の子供達よりは確実に幸せな身分であったと言える。
しかし彼は領主が下賤の者と関係を結ぶ事により生まれた子供であり、
父親以外の全ての家族、使用人達皆から蔑まれ生きていた。
母は彼がこの世に生まれ落ちたその日に領主を誑かした罪でこの地を追放された。
自然彼は自分の居場所が見つからぬ家の内にではなく広い外の世界に毎日遊び場を求めるしかない。

○
　　ある日森を一人で歩いていた彼は不思議な老婆に出会った。彼女は彼に大きな卵を渡しこう告げる。
「それは世にも珍しい卵だ。どうせこの老いぼれの手には余る。持っていっとくれ」
彼はその卵を家に持ち帰った。何という事はない。その卵の中身に興味が働いたのだ。
そうして数日後、無事『怪物』がこの世に生を成した。
甲斐甲斐しい彼の世話のおかげかその必要すらなかったのか、『怪物』はすくすくと育つ。
彼は『怪物』と毎日遊んだ。朝も昼も夜も『怪物』と一緒だった。

○
　　それから数年が経つと、『怪物』は大人一人を優に超す身の丈となっていた。
その頃になるとさすがに家で飼う訳にもいかず『怪物』は森で放し飼いの状態だった。
家族はとっくに『怪物』が寿命で死んだと思っていたし彼もそれを否定しない。
ただ森に出向き『怪物』と遊ぶ。そんな毎日が続けばいいとだけ考えていた。
しかし彼はある時見つけてしまった。本に『怪物』についての記載があるのを。
卵の形状についての記載が記憶と完全に一致していたし、
どう見ても本の中の『怪物』の姿はアイツが成長した姿そのものだ。
彼はその日から森に出向く事を止めた。怖かったのだ。『怪物』を育ててしまった自分の罪が。

○
　　数十年後、領地は森の『怪物』についての話で持ちきりであった。
その森は神聖な森とされていて地元の人々は誰も自ら近寄ろうとはしない。
自分からそこへ近づいたのはまだ幼かった頃の彼くらいのものだ。
けれども近頃夜になると森の外にまで声が聞こえて来る。地を伝う低い低い獣の唸り声が。
それを獣と表現するのは不適切かもしれない。
それの咆哮は領地に住む者達の知るどの獣の遠吠えより彼らを震え上がらせた。
およそあのような声を出す何かが獣の範疇に収まっていようとは到底思えない。
誰もが『怪物』の正体を知りたがったが、
実際に森に分け入って『怪物』の存在を確かめようする者は中々現れない。
そんな中彼は自らその役目を買って出たのだった。

○
　　彼はそれまで一度たりとも誰かに自分の存在を認めて貰えた事がなかった。
そこに居て当たり前であって、居なくても何ら問題の無い存在、それが彼だった。
彼はたとえ自分が死んでもいいから一度だけでも自分の存在を誰かに認めて欲しいと思った。
そんな訳で彼は申し訳程度の装備と使用人を一人与えられ森へと出向いた。

○
　　『怪物』を一目見た瞬間に彼は自分が『怪物』にした酷な仕打ちを完全に思い出した。
どうして今まで『怪物』の事を忘れていたのだろう？違う、忘れようとしていたのだ、
彼は『怪物』と目があったと感じた。間違いない。アイツは私を覚えているんだ。
彼は咄嗟に本能から木の陰に隠れたが、既に自分の命については諦めていた。
これは私の責任だ。せめて私の命くらいは支払わなくてはならない。
彼は使用人に今すぐここから逃げるように言った。
その言葉を待っていたのだろう。使用人は森を一目散に駆ける。
ポキリ。急ぐ使用人の足が小枝を踏み抜いた。
あの馬鹿が。彼は小声で毒づいたがその心境はどういったものであったろうか。
使用人は振り返らない。しかしここから遠ざかろうとしていた怪物はその歩みを止めこちらを振り返った。

○
　　怪物は彼の前に立つばかりで何もしようとしない。彼も又何もしようとしない。
全てを諦めているのだ。突然怪物が鳴き声をあげる。彼にはその声に聞き覚えがあった。
まだ『怪物』が小さかった頃、彼に甘える時に出していた声だった。
「お前は私を許してくれるのか……？」
怪物が尻尾を優しく彼の頬にこすりつける。その日彼は男泣きに泣いた。

○
その日から彼をはっきりと目撃した者は誰もいない。
ただ各地で伝わっているのは四本足の竜に乗って旅をする一人の男の話ばかりである。

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