4:4[sage]
2013/02/11(月) 15:05:21.44 ID:FyZPuZNm0
桃子は少し語りすぎたかな、と多少失敗したような感覚を思うが、唐突に来た声がそれをさえぎった。
「俺は、さ」
京太郎は、
「そんな風になれなかったから」
何かを搾り出すように、
「誰かのためになるほどの力がないから、雑用で甘んじて、それを仕方ないと思って」
告げてくる。
「分かってるんだ。努力が足りないってさ。身にしみてる。努力はしてても足りないってさ」
それは告解のようで、
「天性の才も、環境もなかったのに、努力しなきゃ追いつけないなんてとーぜんの理屈。なのに、俺はどこかで言い訳している」
懺悔のよう。
「"弱いから"そうやって逃げている」
あぁ、と京太郎は呻き、
「だから、羨ましい。嫉妬すら覚える。誰かのために、それだけの思いをもてる東横さんが羨ましい」
自嘲がくる。
「――悪い。今のも結局逃げだったよ。何よりも自分を思ってくれる何かを思う、なんて逃げだよな。東横さんとは状況が違うみたいだし、さ」
桃子は息を呑む。
その姿はどこか疲弊している。
そして似ていた。
――本当に似ているっす。自分と彼は。
言葉にできないようなどこかが、自分と似ていた。
「悪い、今のオフレコ。気にしないでくれ」
京太郎が目元を手のひらで覆う。
それはまるで、見られたくないかのような仕草。しかし、桃子は見つめ続ける。
放っておけない。このままだと、どこかに消えてしまいそうな雰囲気があり、それは儚いような、きっとそんな感じ。
「失礼します。アイスコーヒー二つです」
割って入るように従業員の声がする。
テーブルに置かれたアイスコーヒーは既に水滴にまみれていた。
〇
帰りがけ、既に買い物を終えて、京太郎はバスに乗り込んだ。
そこそこ時間がたってしまった。
右手を見る。携帯を握る手はアドレス帳を開いており、
そこには新たに名前が加わっている。
『東横・桃子』
喫茶店で連絡先を交換して別れた。
帰り際に見せた笑顔は、どこか儚げだったことを覚えている。
『必ず、連絡くださいいっす』
そう言って、彼女は笑った。
消えてしまいそうだと思った。だが、
「暖かかったな」
握った手を思い返す。それは生の実感を感じさせるには十分だった。
――さて、どうしようかね。
京太郎はメール画面を開き、文脈を思った。
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