8:8[sage]
2013/02/11(月) 15:08:31.57 ID:FyZPuZNm0
桃子は踊ることが好きだ。踊っているときだけは誰もが自分を感知する。今ではかつてほどではあるが、だからといって嫌いになったわけではない。
「ほ、よ」
鮮やかな足並み、ステップを、小刻みに、粋に、軽い足取りで、
「と」
回転を一つ、そして静止。
ダンスゲームの筐体から降り、点数を見る。高得点。
「凄いな」
桃子はそんな京太郎の呟きに心を良くし、自慢げに胸を張る。
「当然っす」
「いや、本当に凄いよ」
少なくとも俺には無理だ、と京太郎は言う。
――無理、か。
桃子は、京太郎がその言葉を口に挟むとき、どこか暗いものを吐き出しているように感じる。
自分には無理だ。そういうことを言って、自己を正当化する感覚。
それは、味わったことのある感覚で、
――そう、無理、っす。
かつてがいつかを侵食し、いまになる。
自分は今、かつてほど無理を思うことはなくなっていた。
――助けたいっすよね。
傲慢かもしれないが、それはかつて敬愛する加治木から与えられたそれであり、かつて背負い込んでいた無力感を感じている目の前の人を、
――少しでも和らげたい、そう思うのは傲慢じゃないっすよね?
思う。
「須賀さん、無理、なんてそう簡単に言うもんじゃないっすよ」
だから、"私"は笑ってみせる。
〇
――無理なんていうもんじゃない、か。
そうだよな、と分かっちゃいるんだけどね、と心に渦巻いた。
無理、そういった瞬間から、可能性は本当に無理に変化する。
――分かっていても、実行できるかは別問題、か。
言うは易し行うは難し、詰まるところ単純にそう帰結する。努力"しよう"と"する"はまったくの別問題だ。
「ああ、そうだな」
だから、返したのは生返事だった。
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