9:9[sage]
2013/02/11(月) 15:09:15.27 ID:FyZPuZNm0
――こりゃ、相当やられてるみたいっすね……。
桃子は思う。
"かつて"の自分と同じだ。
否、症状としては京太郎のほうが酷いかもしれない。
自分は焦る必要がなかった。友人を望んだこともあったが、いつかそれすら止めた。相手に合わせる必要を持たずとも良い状況だった。重責を必要とせず、ただ流されるままでも良かった。
しかし、京太郎の今は、違う。実力がないことへの苛み、危うい立場への焦燥感、気持ちと肉体がすりあわない矛盾への怒り、それらが急激に合わさり濁流のように京太郎の今を飲み込んでいる。桃子はそう理解する。
息を吐き、
「じゃ、須賀さん、ほかのところもまわって見ましょ」
桃子は京太郎の手を取った。
〇
「ほうほう、なかなかに大胆な子ですな」
竹井はチェシャ猫を髣髴とさせる笑みを持って二人を見つめる。
「意外だな」
問う呟いたのは加治木だ。
「ふうん? 何が」
「モモがあそこまで彼に入れ込むことが」
そう? と、竹井の声に生返事で返す。
しかし竹井は、
「いやいや、ある意味当然なのかもね」
軽くそういってみせる。
「それは――」
「ま、ある意味私のせいでもあるんだけどね」
ばつが悪そうに竹井は後頭部を軽く掻いてみせる。
ああ、と、
――きっと、こいつにはもう何もかもが――、
幾度か会う機会が設けられ、それなりの会話もしたが、話せば話すたびに、
――あらゆるものを見定められているような……、
深い洞察力からくる、何もかもを見通すような魔眼に睨まれているような、そんな気分を思わせる。
「ま、良いわ、行きましょう」
だが、すぐに表情を切り替えて、
「あ、ちょっと待て……!!」
加治木は竹井を追いかける。
〇
楽しかった、と京太郎は素直に感じた。
振り回されるようだったが、幾分か気分は楽になった。
目の前でアイスコーヒーを飲む桃子を見て、そう思う。
手の中に納まるアイスコーヒーは冷たく、舌に落ちる液体は苦く、しかしそれが身を引き締めるようで逆に良い。
ねえ、と、声が突然来る。とっさに身構え、
「あはは、そんなに身構えなくても良いっすよ」
桃子の言葉にゆっくりと肉体を落ち着かせる。
――ったく、俺はいったい何をやってるんだか。
「ねえ、須賀さん。今日は――楽しかったっすか?」
桃子の問いが来る。
「? ああ」
答えるが、
「本当に?」
再度の問いかけがくる。
「ああ」
告げる。
「……なら、よかったす」
意図が分からない。
「えっと、どうか、したのか?」
京太郎は問う。
「それは、っすね」
一瞬のいいよどみを経て、
「須賀さん。似てるんっすよ」
言った。
「かつての、私と」
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