158:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/27(水) 23:55:59.93 ID:/HL4si7bo
僕と明日香は会話もなく電車に乗って自宅に戻った。こういう雰囲気は初めてだったか
もしれない。明日香は少しだけ遠慮がちに僕の手を握っていたし、僕も彼女の手を握り返
していたけど会話自体はほとんどなかった。元彼が危篤なのだし明日香のそんな態度も無
理はない。ここで変に慰めるよりはそっと見守っていた方がいいと僕は思った。
自宅に戻ると一階の灯りがもう暗くなった庭に漏れ出していた。父さんか母さんが戻っ
て来ているらしい。僕たちは家に入る前に顔を見合わせた。
「ママかパパが帰ってきてるのかな」
「おまえ、家を出る前に電気消してきたんだろうな」
「ちゃんと消したよ」
まあ、日曜日の夕暮れだから両親が揃っていたって別に不思議はないのだ。
「じゃあ、早く帰って来たんだろ。行こう」
「うん」
案の定予想どおり、家に入ってリビングに行くと父さんと母さんが揃ってソファに座っ
ていた。
「おかえりなさい」
母さんが言った。
「ただいま。ママたち今日は早く仕事終ったの?」
「まあね。あなたちはどこかに出かけてたの?」
僕たちは少しだけ視線を合わせた。
「うん。玲子叔母さんの家に遊びに行ってた」
「そうなの。じゃあお昼も玲子にご馳走になったんだ」
「あ、うん。なったと言えばなったかな」
明日香の要領を得ない答えに母さんは笑い出した。
「玲子の手づくりか。あいつは昔から料理が下手だから。じゃあ、お腹空いてるでしょ。
もう夕食の支度はできてるからあなたたち順番にお風呂に入っちゃいなさい」
「うん」
ここまで父さんは会話に参加せずに黙って手元に拡げた新聞に目を落としていた。
・・・・・・まだ仲直りしていないのだ。一瞬明日香が悲しそうな目で僕を見た。
「先に入っていいよ」
僕は明日香に無理に笑いかけた。
459Res/688.68 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。