208:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/20(月) 22:38:31.09 ID:ctdSSd06o
別にいつものことだから驚きもしなかったけど、土曜日だというのに自宅は真っ暗なま
ま夜の底に沈んでいた。
家に入ってリビングの明かりをつけるとようやく少しだけ家が生命を宿したような感じ
がした。
「シャワー浴びちゃうね」
明日香が僕の方を見ずにそれだけ言ってリビングを出て行った。僕の顔を見ようともせ
ずに。
いくらなんでもこれはおかしい。僕はソファに崩れ落ちるように座りながらそう思った。
確かに奈緒の告白はショックだったかもしれない。実の妹だと知って少しだけ安心しだだ
ろう明日香にとっては。それに認めたくはないけど、明日香は池山のことが心配なようだ
った。もともと好きでも何でもなく、僕や両親に対する当てつけで付き合い出したと言っ
ていたのに。
池山は見かけと違って常識的なやつだと兄友も女さんも言っていた。それは叔母さんの
マンションでの小さな諍いの際に明日香にも言われたことだ。明日香が元彼が重態なこと
を心配することまでは僕にも理解できた。逆に言うと、いくら自業自得とは言え瀕死の重
傷を負って入院している人のことを心配しないよう明日香だったら、僕はここまで好きに
なったりはしないだろう。
それにしても、いくら池山のことが心配だからといってそれが恋人である僕への態度を
変える理由にはならないのではないか。僕に抱きついて池山を心配する心への慰めを求め
たっていいはずだ。明日香が本当に好きな男が僕であるなら。
それとも池山のこととかは関係なく、僕はついに明日香に見放されたのだろうか。そう
考える根拠は山ほど思い付く。
有希とのこと。叔母さんとのこと。それに実の妹の奈緒とのこと。どう考えたって僕が
明日香に愛想をつかされる理由にはこと欠かないのだ。
「お兄ちゃん、お風呂入っちゃって」
明日香がリビングのドアから顔を覗かせた。もう飯田に振るわれた暴力の痕は癒されて
いるのだろうか。前回明日香を抱いたときにはうっすらと痛々しい痕跡がまだ残っていた。
でも今夜はそれを確認することは許されないようだった。
「わかった」
僕はリビングを出て明日香の隣を通り過ぎた。情けないけど我ながら女々しい声をして
いたと思う。でも明日香はそんな僕を無視して二階に上がって行ってしまった。僕は階段
を上っていく明日香の後姿をただぼうっと眺めていた。
シャワーを出て自分の部屋に戻った僕は、携帯に着信があることに気がついた。メール
だ。
from :玲子叔母さん
sub :無題
『急にメールしてごめん。明日香大丈夫? 何かあったの?』
『さっきちょっと用があって電話したら、明日香のやつ異様に暗い声だったけど喧嘩でも
した? まあ、余計なお節介はしないけどちゃんとフォローしときなさいよ』
『あとさ。明日香が襲われたときにお世話になった刑事さんのこと覚えてる? 平井さん
というんだけどさ。今日電話があって明後日会いたいってさ。いったい何だろう?』
『念のために言っておくけど月曜日だから、あんたが立ち会おうとしたって駄目だから
ね。じゃあ、くれぐれも明日香のことよろしくね』
いったい明日香に何があったのだろう。彼女は何に悩んでいるのだろう。謝罪が許され
るなら許しを乞いたい。でも、明日香の態度には僕を恨んでいるような様子は見られない。
ただ、俯いて考え込んでいるだけで。
それに平井さんは叔母さんに何の用があるのだろう。叔母さんのことを頼んだのは僕た
ちだったけど、こんなに早く平井さんが叔母さんに直接連絡するとは。気にはなったしで
きれば立会いたいと思ったけど、叔母さんたちが会う時間には僕はまだ授業中なのだった。
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