過去ログ - ビッチ・2
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209:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/20(月) 22:39:04.36 ID:ctdSSd06o

 あのときパパはあたしの提案を受け入れてくれたのだと思っていた。あの夜、パパはも
うあたしに手を出そうともせずに自分の書斎に閉じこもってしまった。寝る前にそっとド
アを少し開いてパパの部屋の中を眺めた。パパは写真立てを手に持ってじっとその中の写
真を眺めていた。その写真のことはよく知っていた。あたしが物心ついたときからパパの
側にある写真。その写真の複製は自宅にも別荘にもパパの事務所にも飾られていた。それ
は怜奈叔母さんの写真だった。写真の中の怜奈叔母さんは富士峰の制服姿でカメラに向っ
て微笑んでいる。それは叔母さんが高校生の頃の写真のようだった。

 玲子叔母さんを大切にし過ぎたため、パパは自分の気持を深く封印しながら叔母さんと
接してきた。叔母さんが結婚したときも黙って叔母さんを祝福したそうだ。長い間静かに
抱き続けてきた自分の気持をぶつけることなく。

 でもそんなパパの気持は報われなかった。叔母さんの結婚は失敗だった。奈緒のパパは
世間でも評価されている有望な若手演奏家だったけど、婚姻面では同時に浮気性の駄目な
夫だったらしい。そのことはパパにとって負い目になったに違いない。自分の気持を隠し
て妹の選択を尊重した結果がこれだ。

 それにもましてつらい出来事が間を空けずにパパを襲うことになった。パパを含めた身
内全員に黙って、怜奈叔母さんは離婚し一人で娘を出産したのだ。それが奈緒だ。パパが
それを知ったとき、怜奈叔母さんは既にこの世の人ではなくなっていた。なぜ叔母さんが
両親や自分の兄であるパパに黙って離婚し出産までしたのかはよくわからない。

 パパが真っ当な弁護士業をはずれたのもこの頃かららしい。離婚や相続関係の民事から
手を引き、パパは債権回収を専門にしだした。成功報酬は債権回収額に応じて一定の比率
で決まる。この頃から我が家は飛躍的に裕福になっていくのだけど、パパの動機はお金で
はなかったと思う。そうすることによってしか愛した妹のことを忘れられなかったのだろ
う。

 もうパパは間違えないだろう。

 大事にしすぎた挙句、妹に手を出さなかった結果がこれだ。亡くなる前におばあちゃん
から聞いた話では、二人は仲の良い兄妹で怜奈叔母さんもパパのことを慕っていたそうだ
から、パパが自分の想いを告白していればあるいは今頃二人は幸せに暮らしていたかもし
れないのだ。もっともその場合はあたしは生まれてこなかったことになるけど。

 パパは二度と間違わないだろう。本気で愛した女の忘れ形見。今度は愛情ゆえに傍観し
て、結果的に相手を不幸にすることはないだろう。

 あたしはそう思ったのだけど、数日後にパパから言い渡された言葉にあたしは愕然とし
た。


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