214:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/30(木) 22:40:45.76 ID:6lUXOLOBo
あたしが麻紀おばさんを訪ねたことは理由のないことではなかった。自分の世界が完全
に崩壊してしまったことを理解した今、どういうわけかあたしは今までよりも冷静にいろ
いろと考えることができた。そう、まるでそっち系のドラッグを静注した後のように意識
が澄み渡っていた。パパの真意を完全に理解したことに対して、ショックを受けたことに
反応したのかあたしの体は自立的に脳内物質を放出したのかもしれない。
これまで以上に、あたしはどの手を打てばどのドミノが崩れ落ち連鎖反応を起こして行
くのか容易に想像し、全体像を把握することができた。
・・・・・・麻紀おばさんは昔からあまりこだわらない人だったから、学校をサボっているこ
とが明白なあたしの行動を気にすることなく、奈緒が不在であることに関わらずリビング
のソファにあたしを招じ入れてくれた。
「有希ちゃんはコーヒーよりミルクティーの方がいいんでしょ」
そう言っておばさんはキッチンの方に引っ込んでいった。昔からおばさんは優しい。あ
る意味では奈緒に対するより、あたしに対しての方が優しかったかもしれない。あまり物
事にこだわらない性質のおばさんも、奈緒にはいろいろと口うるさく注意していたようだ
った。そのことはよく奈緒から繰り返し聞かされていたことだった。
おばさんがお茶の支度をしている間、あたしは立ち上がり、リビングの出窓に飾られて
いる結城家の家族の写真を眺めた。富士峰女学院小学校の入学式の日に校門前で撮影した
らしいスナップだ。
結城のおじさまと麻紀おばさんが微笑みながら、真新しい富士峰の制服をまとった奈緒
の両隣に立って娘の手を握っている。真ん中に立っている奈緒は入学式の緊張のせいだろ
うか。少し強張ったような顔でカメラを見つめている。
奈緒のその表情はとても懐かしい。一学年に二クラスしかなかった富士峰女学院小学校
の入学式の日、あたしは同じクラスになった奈緒と知り合った。この写真はその日の奈緒
を写したものだ。
あたしは同じクラスの隣の席に座っていた奈緒を興味津々に眺めた。そのときの印象で
は、奈緒は可愛らしいというかその年齢にして端正な容姿の綺麗な女の子だった。彼女の
ことを可愛らしいと思わなかったのは、その表情があまり明るくなかったからだろう。
どういうわけか親しくなる前の奈緒は、小学校一年生にしてあまり自分の近くに他人を
寄せ付けないような雰囲気を漂わせていた。年齢のわりにはませていたあたしよりももっ
といろいろな経験を、それもどうやらあまり楽しくない経験を積んでいるような印象を当
時のあたしは受けた。
それでも席が隣同士ということもあり次第にあたしたちは仲良くなっていった。話しか
けてもあまり表情を動かしてくれなかった奈緒が、次第にあたしの話すつまらない冗談に、
時折りだけど少しづつ不器用な笑顔らしい表情を見せてくれるようになった。
お昼休、あたしはいつも奈緒と一緒にお弁当を食べた。奈緒のお弁当はいつもとても綺
麗な色でとても美味しそうだった。麻季おばさんは料理が得意だったのだ。それに比べて
小学校に入学する前に母親を病気で亡くしていたあたしのお弁当は、当時あたしの家の家
事を引き受けてくれていたヘルパーさんが作ってくれたものだった。その人のことはよく
覚えていない。別に嫌な記憶もないので悪い人ではなかったと思うのだけど、今でも時々
やたらに茶色い色彩のお弁当を持たされていた当時の記憶が蘇ることがある。
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