過去ログ - ビッチ・2
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216:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/30(木) 22:42:50.98 ID:6lUXOLOBo

「・・・・・・・あたしママなんて嫌い」

 俯いたままで奈緒が言った。

「ナオちゃん、ママのこと嫌いなの? お弁当綺麗だしおいしいのに何で」

「ユキちゃんはママのこと好き?」

「好きだよ。ママは死んじゃったけど、死ぬ前も今もママのことは大好きだよ」

「ユキちゃんママいないんだ・・・・・・。あたしはママのこと嫌い」

「何で? ナオちゃんのママって怒りっぽいの?」

「ううん。いつもやさしいよ。ピアノだって教えてくれるし」

「やさしいのに何でママのこと嫌いなの」

 ナオは俯いて無表情のままあたしに言った。さっきの笑顔なんかもうどこにも見当たら
なかった。

「だってママはあたしとお兄ちゃんを虐めたし、あたしとお兄ちゃんを一緒にいられなく
したから」

「ふーん」

 あたしにはナオの事情はよくわからなかったけど、この子の笑顔を見たいと言う気持だ
けは、確かにこのときあたしの胸中に沸きあがってきていた。

「早く食べて遊びに行こうよ」

 とりあえずあたしはナオにそう言った。

 あたしはその晩夕食の席で、パパに小学校でできた初めての友人のことを話した。

 初日の入学式、あたしを送り迎えしてくれたのは運転手の中井さんだけだった。それも
送り迎えしてくれただけだったので、入学式のあたしの写真なんかあたしにはない。

 ナオの姓名を聞いたパパは驚いたようだった。

「何だ、もう知り合いになったのか」

 結城家の人たちはパパの親しい友人の家族だよとパパはあたしに言った。

 あたしが初めてナオの家に遊びに行ったとき、麻紀おばさんはあたしを優しく迎え入れ
てくれた。

「ユキちゃんって太田先生のお嬢さんだったのね。おばさん、びっくりしちゃった」

 麻紀おばさんは綺麗な人だった。あまりナオには似てはいないけど、小学生のあたしが
見てもそう思ったくらいおばさんは美しかった。まるでテレビに出てくる女優さんが演ず
る若い奥さんのようだ。

「ナオと仲良くしてあげてね」

 うちの家ほど大きくないけれど、瀟洒なナオの家にはナオのお父さんの姿はなかった。
ナオはママと二人でその家で暮らしていた。もう少しして聞いた話では、ナオのパパは海
外のオーケストラで活動していたため、ほとんどその家には帰って来なかったそうだ。

 その頃になるとあたしとナオは本当に仲良くなっていた。ナオはよくあたしにピアノを
弾いてくれた。その演奏は学校の音楽の先生の演奏よりもあたしの心を揺すった。真剣な
表情でピアノに向っているナオの表情は凄く綺麗だった。

「ナオちゃんすごい」

 あたしは言った。

「ユキちゃんは音楽はしないの?」

 麻紀おばさんが言った。

 残念ながら我が家にはあたしにそういう情緒的な教育を施してくれるような人はいなか
った。多忙なパパを含めて。だからあたしはそういう家庭事情を正直に麻紀おばさんに話
した。


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