222:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/03(月) 23:08:47.16 ID:Da4jKH6wo
「太田先生、あなたに話しちゃったの?」
麻紀おばさんは驚いた様子だったけどそれはあまり長くは続かなかった。おばさんには
ショックを与えるはずだったのに、どういうわけかおばさんはすぐに冷静になってしまっ
たようだ。
「うん。全部聞いちゃった」
「もう。先生ったら弁護士の癖に。依頼人の秘密を何だと思っているのかしら」
もうおばさんは驚きから醒めて、落ち着いた微笑みをその顔に浮べながらそう言った。
「まあ、むしろ今までよく黙っていられたって誉めてあげるべきなのかな」
「おばさん、もっと驚くかと思った」
あたしは少し当てがはずれた。その感情は表情に出てしまっていたらしい。
「ごめんね。でもちょっとは驚いたのよ。だから、機嫌なおしてね」
一 もっと情報を手に入れパパの話を補強して全体像を把握する
ニ その過程で麻紀おばさんを動揺させる
三 その動揺によって鈴木家が揺らぎ、奈緒もそれに巻き込まれ追い詰められる
麻紀おばさんを男の子たちに犯させるという愚作のほかに、あたしが第一段として考え
ていたのはこの程度のことだった。それはこの先のステージに続く単なる序章に過ぎない。
そしてこれ自体はとても難易度の低いオペレーションのはずだった。それなのにこんな初
歩的なところから躓くとは思わなかった。
街角にたむろしている若い子たちは、普通の女の子にとってはとても恐い存在らしい。
あたしは、そういう男の子たちの浅はかな考えを読み取ることができた。虚勢を張った態
度。派手で人目を引いてはいるけど、それは毛を逆立てて精一杯相手を威嚇する無力で小
さい猫のように底の浅い行動だ。彼らの心の中には慢心と増長しかなくて、少し本質をつ
いてあげるとすぐに屈服して今度は飼い犬のように尻尾を振り出す。
もちろんあたし一人の力のせいではない。最初は大部分はパパの力を借りての行動だっ
たけど、そいつらを靡かせて組織化する過程で、あたしは町の不良なんかを恐れる気持は
全く無くしてしまっていた。あからさまな利益の供与と遠まわしな脅し。そして時にはだ
れた組織を引き止めるための直接的で残酷な行動。世の中には二種類の人間がいる。
あたしやパパのように価値のある人間以外の連中は取るに足りないのだ。
それなのに優しく綺麗なだけで無価値なはずのおばさんに対して、あたしが仕掛けた心
理戦は空回りしてしまったのだ。奈緒の母親だというだけで、おばさんがあたしに対して
対抗できるような人間だなんて今の今まで考えもしていなかったのに。
「有希ちゃんこそショックだったんじゃないの? 奈緒があなたの従姉妹だなんて聞かさ
れたらびっくりするよね。かわいそうに」
「そうでもないけど」
「無理しなさんな。でもさ、あなたたち二人が血が繋がっているって素敵じゃない」
「素敵って・・・・・・。そんな簡単なことなの?」
「ああ、ごめん。でも間柄が遠くなるより近くなった方がいいんじゃない?」
「・・・・・・そんな」
何であたしがおばさんに攻められてしどろもどろになっているのだろう。おかしいじゃ
ない。あたしは内心焦った。人との交渉であたしがここまで主導権を握られるなんて初め
てだった。これまであまり気にしていなかったおばさんに対して、あたしは全く優位に立
てない。ついさっきまで麻紀おばさんをあいつらに襲わせようという考えを慰みに弄んで
いたあたしだったけど、今はとてもそんなことを考える余裕はなかった。
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