過去ログ - ビッチ・2
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276:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/27(木) 23:48:28.97 ID:dvLTtGrdo

 はっきりと全てが明瞭に記憶の中に蘇ったわけではない。それでも何で今まで忘れてい
たのか不思議なくらい胸が痛くなるような思い出だった。

 それからしばらくの間、土曜日になるたびに僕は父さんと新しい母さんには黙って電車
に乗って奈緒を迎えに行くようになった。当時両親からもらっていったお小遣いを全て電
車代に変わったはずだ。今にして思えば両親が多忙だったことも、僕の毎週土曜日の秘密
が両親には知られなかった原因だったのだろう。

 この頃になると奈緒は友人の女の子と行きき返りを共にすることになって、ママは奈緒
の送迎をやめていた。奈緒とその友だちとの間でどんな話し合いが行われたのかはわから
ないけど、彼女と奈緒が一緒にいるのはピアノ教室への行きだけだった。

 奈緒と一緒に夕焼けの街並みを手を繋いで歩いていたことを思い出すと、明日香と兄友
とのことを忘れるくらい幸せな気持になった。両親の離婚で無理矢理引き剥がされた僕と
奈緒は唯お姉ちゃんのおかげで奇跡的に週に一度だけ二人きりになれるようになったのだ。

 今思えばこの頃の奈緒は言っていた。ピアノが好きになったのは、この教室に来れば僕
と会えるからだと。

 そう言えばこの幸せな日々はいったいいつ終ったのだろう。奈緒のことも含めて僕が過
去の記憶を全て失ったのはいつのことなのだろう。

 もう少し幸せだった頃の奈緒との記憶を探りたかったけど、僕はこのとき自分の記憶喪
失の時期と原因を考えてみようと思った。これだって明日香のことを考えないための逃避
だったかもしれないけど。

 ただいくら記憶の底を探ってみてもその後のことは思い出せなかった。奈緒とのこの秘
密の時間がいつ、どうして終ったのかという記憶は全く蘇ってこない。奈緒と再び別れが
あったことだけは確かな事実だ。そして多分そのときに起きた出来事は僕には受け止めき
れないほど衝撃的だったのだろう。僕の過去の記憶の大半はそのショックのせいで失われ
たのだ。

 僕は記憶を探ることを諦めた。こうして考えると記憶を失った僕と記憶を持ったままの
奈緒とではどちらの方がよりつらいのだろうか。多分考えるまでもなく記憶から逃げた僕
よりも、心に衝撃を受けるくらい思い出来事の記憶と戦った奈緒の方がよほどつらかった
だろう。

 僕は手に取っていた古い携帯電話を眺めた。そう言えばこれは今までどこにあったのだ
ろう。そして何でこんな物が今さらソファのうえに放置されているのだろう。

 これは考えるまでもない疑問だった。今朝この部屋になかった携帯が帰宅した時にはソ
ファにあった。両親がこんな時間より前に一時的にせよ帰宅することはないだろう。

 明日香だ。彼女が何をしたかったのかはわからないけど、これは明日香がしたことだ。


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