過去ログ - ビッチ・2
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288:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/04(木) 23:44:16.21 ID:j39CgiDpo

 兄貴が再び帰国したとき、麻紀さんからの挑戦状が我が家に届いていた。それはひどい
中傷とでたらめを並び立てた内容だった。

 麻紀さんの離婚協議を受任した弁護士は証拠もなしにこんな内容を信じるほど酷く無能
なのだろうか。それともどういう理由かわからないけど、麻紀さんのことを信じる振りを
しているのだろうか。こんな悪意だらけの文書を作成する弁護士なんてそのどちらかでし
かない。司法試験の勉強こそしなかった法学部の学部生に過ぎないあたしにだってそれく
らいのことはわかる。

 太田という弁護士の受任通知が届いてから、長い離婚闘争が始まった。お互いの言い分
が真っ向からぶつかっていたせいで調停は長びかざるを得なかった。証拠不十分な状態で
は、事実認定することは滅多にない調停向きの戦いではなかったので、初めから不調にし
て裁判にした方がよかったのかもしれない。ただ、長びくことも悪いことばかりではなか
った。長びけば長びくほど兄貴の側に育児実績が有利に積みあがっていくのだから。

 この頃になると大学ではもう講義はなかった。一月に一度ゼミの指導教授に面会して卒
論の指導を受けるくらいだ。

 ある日、指導教授との面会後に廊下に出ると彼が立っていた。

「よう」

「あ・・・・・・」

「何か久し振りだな」

「うん」

 あたしは今の今まで彼のことを忘れていたのだった。奈緒人と奈緒の世話、それに兄貴
のフォロー以外のことなど何も考える余裕はなかった。それでこのときのあたしは彼の優
しい視線に少しだけ罪悪感を感じた。

「まだ家庭のごたごたで忙しいのか?」

「あ、うん」

「そうか。無理するなよ。俺にできることがあれば何でも言ってくれよ」

「ありがと。でも大丈夫だから」

「じゃあな。寂しいからたまには連絡してくれよ」

「うん。メールするね」

 本当に彼には悪いとは思ったのだけど、今のあたしにはあのときの彼のプロポーズなん
てどうでもよかった。

 彼には大丈夫とは言ったけど実は全然大丈夫じゃなかった。今のあたしに取っての悩み
は時間だった。着々と育児実績を積んでいるようでいて、実はその有利な状態には期限が
付いていたのだ。


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