29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/22(金) 23:44:08.26 ID:/e7W3Teeo
「そうね。わかった」
麻季はそう答えた。「わかったから、あなたの身体に悪いから少しでも食べて」
もうとうに食欲なんてなくなっている。僕は形だけ目の前の皿からなにやらフライのよ
うなものを取り上げて口に入れた。味なんて全く感じない。
「博人君、串揚げ好きだったよね」
「どうでもいいよ、そんなこと」
「わかってる。あのときね、あたしは」
麻季は散々悩んだ挙句、その声を信じることにしたのだった。その圧倒的な説得力を前
にして信じざるを得なかった。
それは麻季がこれまで漠然と感じ続けてきた不安に正確な解答が与えられた瞬間だった。
このとき麻季は全てを理解した。これまで博人に対する自分の愛情の深さを彼女自身疑っ
たことはなかった。でも、怜菜が自分の死をも厭わず博人の心の中で一番の女性として生
き続けていく道を選んでそれを実行したとしたら、その愛情は麻季のそれを凌ぐほど深い
ものであると考えざるを得ない。つまり愛情の深さにおいて麻季は怜菜に負けたことにな
る。
怜菜の自殺によって博人の心の中では、最後に会った怜菜の記憶が永遠に凍結されたま
ま古びることなく残るだろう。それは怜菜が博人への愛情を遠慮がちに表わしたときの切
ない記憶だ。表面上は麻季に優しく接している博人の中では、怜菜の愛に応えなかった自
分への後悔と、そんな自分を責めずに寂しげに微笑んで身を引いた彼女の最後の表情や容
姿がいつも浮かんでいるのだ。
麻季は最終的に怜菜に負けたのだ。
『負けちゃったね・・・・・・怜菜を甘く見すぎていた』
声が重苦しく囁いた。
『・・・・・・うん』
『このことに気がつかなければこの先博人との仲を頑張って修復することを勧めたと思う
けど、怜菜の意図を理解した以上このまま博人と一緒に生活しても君がつらいだけだと思
う』
『どうしろって言うの』
『わからない』
『博人君の心を取り戻す方法が何かあるでしょう。今まで散々役に立たないアドバイスし
ておいて、こんなときには何も言わないつもり?』
『・・・・・・』
『確かに怜菜の思い切った行動で一時的に彼の心は奪われているかもしれないけど、博人
君は、結城先輩はあたしのことが好きなの。先輩に殴られたあたしを助けて、あたしの髪
を撫でてくれたときから』
『死んだ人相手には勝てないよ』
『そんなのってひどいよ』
『ただ』
『え?』
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