過去ログ - ビッチ・2
1- 20
306:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/16(火) 22:39:18.50 ID:AhPKC+s4o

 その仕事は半年ほどで相手方の会社とパテントについて折り合いがつき決着した。あた
しは初めての仕事を無事に終えたのだ。そしてこのタイミングで形式的な試用期間が終了
する。あたしは正式採用になる前に社を去ることに決めた。

 社会人としては失格だと思う。結局、あたしはこの仕事に何の生き甲斐も将来性も見出
せなかったのだ。最初に辞職について相談した係長は退社後に詳しく話を聞こうと言って
くれた。最初はあたしも辞退したのだ。離婚して一人でお子さんを保育園に送り迎えして
いる係長がうちのような企業の第一線に残っている自体が奇蹟だ。訟務課長が係長の能力
を認めて庇っているらしいという噂はあった。確かに係長の能力は半年ほど一緒に仕事を
したあたしにもよくわかった。それだけに辞めて行くあたしなんかのために大事なお嬢さ
んや仕事に割くべき時間を無駄にさせるわけにはいかなかった。

 でも遠慮するなと言う係長に根負けし、あたしは退社後に係長と待ち合わせをした。



「結城、こっちこっち」

「遅れてすいません」

「別に遅れてないじゃん。むしろ五分早く到着してる。結城も成長したな」

「・・・・・・これくらいで成長と言われても」

「だっておまえ、最初の頃は出先での待ち合わせに遅れまくってたじゃん」

「まあ、そうなんですけど」

「とにかく座れよ。生ビールでいいか」

「あ、はい」

 注文したビールが届けられほんの形だけ乾杯の真似事をしたあと、係長は喉を鳴らせて
一気に中ジョッキの半分ほどを喉に流し込んだ。

「うめえ」

「係長ってお酒好きなんですか?」

「うん。大好きだよ」

 係長は普段は課の親睦会にも部の歓送迎会にも顔を出さない。お嬢さんのお迎えがある
ので非公式で係の皆で飲みに行くときもその席には係長の姿はないのだ。

「育児してるとさあ、飲みにも行けないし。子どもを風呂に入れて飯食わしてさ。その後
相手してやって、ようやく寝付いたらもう十一時過ぎだもんな。普段は家では酒なんか飲
めないんだよな」

 一人で育児をして仕事もしているならゆっくりとお酒を飲む余裕なんてないだろう。う
ちみたいな多忙な企業で、課長の理解と擁護があるとはいえよくそんな生活が成り立つも
のだ。

「本当に今日は平気なんですか」

 係長はメニューを広げて、本当に楽しそうにつまみを吟味しつつ言った。

「ああ。今日は実家に迎えと明日の世話を任せてきたからな。結城のおかげで今夜は久し
振りに外で酒を飲めるよ」

 係長がメニューから目を上げて笑った。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
459Res/688.68 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice