312:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/16(火) 23:07:42.55 ID:AhPKC+s4o
唯お姉ちゃんは父さんとママ、つまり麻紀という女の人に裏切られた僕と奈緒に最後の
希望を与えてくれた。それ以前にはママに捨てられた僕たちを引き取ってつかのまだった
けど幸せで安定した日常をくれた人だ。
でも、唯お姉ちゃんのマンションから出て帰宅する僕の心の中は混乱していた。果たし
てお姉ちゃんは何のために今さら僕を呼び出したのか。今でも彼女は僕の味方なのか。そ
れとも有希の見方なのか。
『大田先生の事務所に最初にあいさつに行ったときにさ、あたしびっくりしたの』
『・・・・・・何で』
『会社勤めしていた頃何度も訪れていた事務所だったんだけど、あの日応接室に通される
と小さな女の子がいたの。奈緒と同じ年くらいの女の子がね』
『本当に驚いたのよ。あなたたちと分かれてから小さい子どもと会うのは久し振りだった
し、とにかく丸の内のオフィス内で平日の昼間にこんな子どもがいるなんて非日常的だっ
たし』
『それが有希さんだったの?』
『うん、そう』
何か現実離れした光景だった。綺麗な応接室に幼い女の子がいて、その子は大きなソフ
ァに蹲るように座って絵本のような大判の薄い本を広げていた。
あたしは戸惑った。最初は、太田先生の事務所の事務員が間違った部屋にあたしを案内
したんじゃないかと思った。
女の子は応接室に入ってきたあたしに気がついて、絵本から目を上げあたしを見た。
『あなた誰?』
誰って言われても返答に困る。奈緒の面倒をみていたからたいがいの幼い女の子の相手
はできるはずだったけど、この子の子ども離れした鋭い目にあたしはたじたじとなった。
『あなたもパパの恋人なの?』
『はい?』
『あなたもパパの恋人なの?』
その女の子が繰り返した。それが日常的に繰り返しているような何気ない口調だった。
『違うけど』
『違うんだ。たまにはパパの恋人じゃない女の人がここに来るんだね』
この子は何を言っているのだろう。太田先生は仕事以外のことには興味のない種類の男
だと思っていた。わずかな間だけど業務上の必要から先生をアシストしたあたしはそう確
信していたのだ。
でも、太田先生をパパと呼ぶこの子にとっては、太田先生に対する認識はそういうこと
ではないらしい。
『パパってね。恋人がいっぱいいるんだよ。事務所の人とか会社の女の人とか』
全部身内の事務所の女じゃないか。本当のことなんだろうか。
『そうなんだ。あなたのパパは女の人に人気があるんだね』
かろうじてあたしはその子に言った。ずいぶんませている女の子らしい。
『うん。ママが死んでからパパは女の人にもてるんだよ』
『そうなんだ。あなたお名前は?』
こんなに幼い子に聞かれて、あたしはどうでもいいはずのことを思わず口にした。
「有希だよ。太田有希」
「こら、有希」
そこで応接室のドアが開いて狼狽したような声で太田先生が有希ちゃんを叱りながら部
屋に入ってきた。
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