過去ログ - ビッチ・2
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324:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/24(水) 23:44:12.87 ID:WX+iqy8+o

 なので有希ちゃんとはあまり会わなくたったことは、別にあたしの人生を変えるほどの
インパクトはなかった。あたしは、相変わらず要求レベルは高かったけど勤務時間のほと
んどを捧げるまでもなく遂行できる仕事に従事しながら、主観的にも客観的にも無駄な時
間をこの事務所の与えられた個室で過ごして来た。もちろん司法試験に受験することもな
く、司法書士の資格を取得するでもなく婚活するでもなく、ただ茫漠とした日々を。

 そうして忙しい曖昧で記憶の残るものがあまりない月日が何年も無益に流れた後、寒い
冬のある朝、いつもどおり出勤したあたしはビルのロビーですごく久し振りに有希ちゃんを見かけた。

 確か彼女ももう中学二年生になっているはずだった。彼女の清楚な富士峰の制服姿は、
出勤時間のこのビルのエレベーターホールではやたら目立っていた。

 少しだけ大きくなったけど、あたしにはすぐに彼女のことがわかった。

 それは平日の朝のことだったので、有希ちゃんは学校があるはずだ。あたしは不審に思
った。別にあたしに会いにきたわけではないだろうけど、無視することもない。あたしは
有希ちゃんに近づいた。出勤する人たちの群れの中で有希ちゃんはあたしに気が付いた。

「唯ちゃん?」

「有希ちゃん。久し振りだね」

「唯ちゃん、元気そう」

「まあね。こんなに早くどうしたの? 太田先生は一緒?」

「ううん。彼は今日は審議会なんで法務省に直行だって」

 うん? 彼って有希ちゃんのパパのことか。久し振りに会った有希ちゃんの大人びた表
情と彼っていう表現にあたしは少し戸惑った。

「彼って、太田先生のこと」

 有希ちゃんは幸せそうに微笑んだ。

「うん。パパは最近はすごく忙しいの。政府の審議会にも呼ばれてるし、新しい事務所も
立ち上げたんだって」

 有希ちゃんってこんなにパパっ子だっけ。一瞬、少し斜に構えて幼女らしくもなく父親
のこと批判的に眺めていた幼い彼女の姿が目の前にいる有希ちゃんの姿に重なった。

「そうなんだ。そんなに忙しいんだ。どおりで最近企業訴訟とかのミーティングに先生が
姿を現さないわけね」

 有希ちゃんが得意そうに微笑んだ。

「うん。パパはそこいらにいる弁護士とは違うからね。忙しくてもしようがないよ」

 何だか違和感を感じる。別に有希ちゃんはパパが嫌いと言うわけではなかったけど、少
なくとも多忙な仕事のせいで先生に放置されていることは気にしていたはずなのに。それ
がどうだ。今の有希ちゃんは微笑んで先生の多忙さを、まるで先生の奥さんになったかの
ように得意気に説明している。

 いったい彼女に何があったのだろう。


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