325:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/07/24(水) 23:45:49.38 ID:WX+iqy8+o
やがて一階のフロアに到着したエレベーターに、なだれ込んでいく他の人たちと一緒に
あたしと有希ちゃんも乗り込んだ。あたしは事務所のある十四階のボタンを人混みの中で
苦労して押した。
「二十六階も押してもらっていい?」
有希ちゃんがそう言った。反射的に二十六階のボタンをおしてから、あたしは有希ちゃ
んを見た。
「うん? 事務所に遊びに来たんじゃないの?」
「新しい方の会社の事務所にね。今話したじゃん。パパが新しい事務所を作ったって」
そう言えば彼女はそう言っていた。有希ちゃんの先生に対する奇妙なほど崇めているよ
うな態度が気になって、そっちの方は聞き流してしまっていた。
新しい事務所って何だろう。あたしが所属する弁護士法人とは関係がないことは確かだ。
こんな話は全く噂にすらなっていなかったのだから。
「唯ちゃんも見に来れば?」
「うん。でもいいのかな」
「別に問題ないじゃん」
それであたしは十四階で降りずに二十六階まで有希ちゃんと一緒に昇っていった。
「ここだよ」
外見はうちの事務所と大分違うようだ。十四階の太田法律事務所の外見はガラス張りで
外からは簡素だけどお金のかかった上品な調度が見える。一見のお客さんならちょっとは
入りづらいと感じるだろう。太田事務所のクライアントには個人の依頼人はいないのだか
ら、これで問題ないのだけど。
有希ちゃんに案内された場所には頑丈そうなドアがあるだけで、ガラス張りのエントラ
ンスなんか見当たらない。ドアには金色の簡素なプレートが掛かっている。
『太田リサーチ・オフィス』
そのプレートに記されている名称は簡素だけど怪しげだった。
あたしの怪しげな場所を眺めるような視線を少しも意に介さず有希ちゃんはカードを取
り出して壁面のリーダーに通した。小さな緑色の光が点灯してロックが解除された。
「どうぞ。中を見ていってね」
入り口の無愛想なドアを開けて中に入る有希ちゃんの後についてあたしもその事務所に
足を入れた。
ドアを開けたところには、受付カウンターではなく事務用の地味な灰色のデスクが二つ
向きあって置かれていて、二人の女性がそこに座っていた。
「おはよう」
有希ちゃんが声をかけた。あたしより若そうな彼女たちは二十代半ばというところだろ
うか。二人は有希ちゃんを見ると揃って立ち上がっていきなり敬礼した。
一体何だ。驚いているあたしを尻目に有希ちゃんが笑い出した。少し遅れて真面目な顔
で敬礼していた彼女たちも照れくさそうに笑い出した。
「全然本物っぽくないね」
「まだ練習を始めたばっかりだしね」
「何か漫才の人がふざけて敬礼の真似しているみたい」
「そこまで言わなくてもいいじゃん。こう見えてもあたしたち、真似をすることはプロだ
ったし」
「女優の卵とかだっけ?」
「うん。まあ、そう言う感じ。中学生の有希ちゃんにはこれ以上言えないけどさ」
「どうせ、イメクラかなんかで働いてたって落ちなんじゃないの」
「イメ・・・・・・って、有希ちゃんなんてこと言うのよ。中学生がそんなこと知らなくていい
の」
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