過去ログ - ビッチ・2
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38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/26(火) 00:04:19.93 ID:R3OcIW1Do

「時々、奈緒人たちに気がつかれないようにそっと部屋に入って観察していたんだ。最初
のうちは二人とも全然切羽詰っている様子はなかったの。むしろあたしがいなくて奈緒は
喜んでいたようだったよ。奈緒人にベタベタくっ付いて甘えてたし」

「切羽詰っていない子どもが衰弱して動けなくなるわけないだろ」

「そうね。最後の日に奈緒は疲れ果てたのか眠っていたの。それであたしは奈緒人に話し
かけたのね。もともとそれが目的だったし」

「疲れ果ててじゃねえよ。それは衰弱してたんだよ。おまえ、それでも母親かよ」

 それでも麻季は博人の言葉にはもはや動じている様子はなく、淡々と話を続けた。

「奈緒人は眠っていなかった。ただ奈緒の傍らに横になって奈緒を横から抱きしめていた
の。それであたしは奈緒を起こさないようにそっと奈緒人に囁いたの。奈緒はいたずらを
したからお仕置きしなきゃいけない。でも奈緒人は悪くないからママと二人でよければお
食事しに行こうって」

「君は・・・・・・なんてことを」

「ほら。やっぱり博人君は奈緒を庇うんだ」

「庇うとかそういう問題じゃねえだろ」

「まあいいわ。そのときね・・・・・・奈緒人が言ったの。ママなんか嫌いだって。奈緒が一緒
じゃなきゃどこにも行かないって」

「それを聞いたとき、あたしは決めた。たとえどんな犠牲を払ったってもうこれ以上怜菜
の好きにはさせないって。そうしてあたしが奈緒人と奈緒を残して部屋を出ようとしたと
き、奈緒人は何をしたと思う?」

「・・・・・・どういうことだ」

「奈緒人はね。部屋から出て行くあたしのことなんか振り返りもしなかった。そして奈緒
人は眠っている奈緒の口にキスしたの。まるで生きていれば怜菜に対してあなたがそうし
ていたかもしれないようなキスを」

「ばかなことを。怜菜と奈緒を重ねるな。それに奈緒人は僕じゃない・・・・・・僕の息子なん
だ」

「そのときがちょうど六日目だった。児童相談所へ近所の人から通報があったでしょ?」

「・・・・・・ああ」

「あれ、あたしなの。もう奈緒人の前に姿を現す勇気はなかったけど、子どもたちが限界
なのもわかっていた。だから近所の人の振りをして児童相談所に電話したの」

「あたしはこれ以上怜菜に自分の人生を狂わされたくない。これ以上怜菜にあたしの大事
な子どもたちの人生も狂わされたくない」

 麻季は疲れたような表情で少しだけ笑った。大学時代から今に至るまで麻季のそういう
複雑な表情をまじまじと見たのは初めてだった。麻季を非難しようとした博人の言葉が口
を出す前に途切れた。


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