407:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/23(土) 22:26:14.24 ID:Hrg8o0SYo
そのとき女さんが真面目な表情で僕を見て言った。
「時間を巻きして昔の行動をやり直せたらなあって思ったことない?」
そう言われた僕は少し真面目に考えてみた。
後悔している過去の行動。やり直せるとしたらやり直したいこと。でも、不思議なこと
にそれは全く思い浮ばなかった。誰にでも後悔している過去はあるはずなのだけど、今の
僕にはそれがないのだ。
それは今まで自分が受動的に流されて生きていたせいなのかもしれない。奈緒と再会し
奈緒に告白されてOKしたこと。それについて後悔はない。明日香に告白されそれを受け
入れたこと。明日香と兄友との過去の関係を消化しきれていないことは確かだけど、それ
でもそのときの自分の決意を後悔はしていない。
そのとき一つだけやり直したいと思う行動が思い浮んだ。玲子叔母さんを抱きしめてキ
スしたことだ。一瞬雨に濡れたブラウス越しに見えた叔母さんの白い肌が思い浮んだ。そ
して、冷たい雪の中で腕を組んで歩いた海岸の情景も。
「・・・・・・あるんだ。何を後悔しているのかお姉さんに言ってごらん」
女さんが笑って僕にそう言ったけど、その表情の奥には気軽に応じることができないよ
うな深い悲しみがあった。僕は黙りこくっていた。
「兄友なんか好きにならなきゃよかった。そうすればこんなに悲しむことも悩むこともな
かったのに」
「気持はわかるよ」
「何がわかるの」
女さんが静かに言った。「言ってごらん。君には何がわかるの」
「いや。だって兄友のやつが」
「多分、今の君にはわからないと思う。奈緒ちゃんと付き合ったり、彼女を振って明日香
ちゃんといい仲になったりするような君には」
僕は反論できなかった。そうか。女さんから見れば僕のしていることは兄友と同じよう
に見えているんだ。改めてそう気がつくと僕には明日香と兄友の関係を非難できるような
立場じゃないかもしれない。自分では女さんと一緒で被害者のような気持でいたのだけど、女さんにはそうは見えていないのだろう。被害者は女さんだけで彼女から見れば僕は兄友
と同じ加害者のように見えているのかもしれなかった。
でもそのあとに続けて女さんが言った言葉は僕を驚かせた。
「君がさ。前に告白してくれたときに戻れるような機械ってどっかで買えないかな」
女さんは俯いてそう言った。別に僕のことを非難しているようには思えない。
「何でそういうのが欲しいの」
「だって」
このとき女さんが顔を上げて僕の方を真っ直ぐに見た。
「そしたらやり直せるじゃん。好きになってくれて告白してくれてありがとうって。あた
しの方こそよろしくお願いしますって、君に言えるじゃん」
「兄友のことで自棄になって・・・・・」
「そうだよ。あたしは自棄になっているのかもしれない。でも今の自分が本気でそう思っ
ているんだからそう言うしかしかたないじゃん」
どう答えていいのかわからず、助けを求めるように周囲をきょろきょろと見回していた
僕の視界に、俯いたまま駅の方に向かって歩いている明日香の姿が映った。
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