70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/04(月) 00:05:36.62 ID:fb47vGvAo
「それはちょっと無理かも。ごめん」
奈緒の表情が曇った。
「え、何で? あたしお兄ちゃんと明日はずっと一緒にいられるんだと思ってたのに。奇
跡的に再会できたんだよ? あたしたち」
「それはそうなんだけど・・・・・・。僕も今は彼女がいるし、あいつを寂しがらせるわけには
いかないし」
僕の言葉を聞いて奈緒の顔が一瞬で真っ青になった。
「え? 何よそれ。お兄ちゃんとあたしは兄妹ってわかるまでは付き合っていたんでし
ょ? まさか、その頃から二股かけてたの」
「そんなことないよ。でもおまえは僕の実の妹だし、もうおまえのことは彼女とは言えな
いじゃんか」
「それってついこの間にわかったことじゃない。それなのに何でもうお兄ちゃんにあたし
以外の彼女がいるわけ? ついこないだまであたしと付き合っていたくせに」
奈緒の表情がいつものような穏かな微笑みを浮べていた今までと一変している。
「違うよ。話を聞けって。おまえが実の妹だって聞いて僕だって悩んだんだよ。この間ま
で女性として好きだったおまえとはもう恋人同士でいられなくなったわけで。そんなと
き」
「明日香ちゃんか」
今までの照れたような好意的な態度からひどく醒めた表情に変わった奈緒が言った。
「え? おまえ何で知って」
「明日香ちゃんなんだ。何で知っているって? バカなこと言わないでよ。お兄ちゃんに
は昔の記憶があまりないのかもしれないけど、あたしは全部覚えてる」
僕は言葉を失った。何で奈緒が明日香とのことを知っているんだ。いや、それより奈緒
は昔の記憶があると言った。奇跡的な偶然の再会の末に思い出したのだろうか。
「お兄ちゃん、明日香ちゃんのこと好きなの」
そう言った奈緒は僕が初めて見るような暗い表情だったかもしれない。過去の記憶があ
まりない僕にとって、奈緒はいつも礼儀正しくて自制できる女の子だった。恋人になった
ときその自制が崩れて混乱した表情で僕に抱きついてきたことはあった。でも今の奈緒は
僕が初めて見るような暗く重い感情をその顔に宿していた。
「うん。明日香は僕の彼女だよ」
僕は奈緒にそう答えた。奈緒がどう思ってもしかたない。僕にとってこれまでの明日香
の僕への献身はそれくらい重いものだった。そして僕はそういう明日香に応えたのだから
ここで迷うわけにはいかなかったのだ。
せいぜい奈緒が再会した兄貴にできた彼女に嫉妬して悲しむくらいに僕は考えていた。
それでも奈緒と僕は再会した仲のいい兄妹でい続けられるだろうと思っていた。なにより、
奈緒は僕のことを兄貴として割り切っていたようだったから。
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