8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/15(金) 23:17:16.05 ID:kwCozKeOo
それでも怜菜は死んだ。彼女の目的は意図しない自分の死によって阻止されたのだ。い
つまでも死んだ怜菜に嫉妬したり彼女を恨んでいる場合ではなかった。
死人に嫉妬しても何も解決しない。怜菜の想いは中途半端に博人の記憶に残ったけど、
その想いに将来はないのだ。
少なくとも麻季と博人には奈緒人がいた。二人は怜菜の死の記憶を封印するように、再
度この家庭を維持することを選んだ。表面的には二人の仲は以前より安定しているように
も思えた。いまさら悩んでも得ることはない。そう悟った麻季と博人はだんだんと以前の
安定した生活を取り戻していった。
鈴木先輩から電話があったのは、博人が奈緒人を連れて公園に遊びにいている休日のこ
とだった。
『久し振り』
先輩が電話の向こうでそう言った。
『・・・・・・もう電話してこないでって言ったでしょ』
『わかってる。君を騙していたことを一言謝りたくて』
『もう、どうでもいいよ。そんなこと』
『君を騙すつもりはなかったんだけど、何となく怜菜と結婚しているなんて君には言い出
しづらくて』
『気にしてないよ。今となってはどうでもいい』
『怜菜の子どもの名前聞いた?』
『奈緒ちゃんでしょ。知ってるよ』
『結城のガキの名前から娘を命名するなんてあいつは気違いだよ。いくら結城のことを好
きだからって、怜菜からこんな仕打ちを受けるいわれはないよ』
『結城のガキってあたしの大切な息子のことを言っているわけ?』
『悪い。でも俺は純粋な被害者だよ。怜菜に裏切られたうえに勝手に死にやがって。浮気
相手のことを想って命名された娘を、俺は押しつけられてるんだぜ』
『何があったとしても自分の子どもでしょ』
『ああ。そうだな。最初はそれすら疑ったよ。DNA鑑定までした。結果は結城じゃなく
て俺が親だったけどな。こんなことならあんなビッチのことなんか久し振りに抱くんじゃ
なかったよ』
『さっきから聞いていると先輩だけが一方的に被害者みたく聞こえるね』
『麻季だって浮気されたんだぜ。おまえも俺も被害者じゃないか』
『・・・・・・博人君と怜菜は浮気なんてしていなかったよ』
『そうかな。今にして思えば怜菜のやつ、やたら麻季の話をしてたもんな。麻季が保健所
によく子どもを連れて健診や相談に来るとか、麻季の家はどこにあるとか、あのスーパー
に毎日買物に来てるとかさ。俺の麻季への気持を知っていて俺のこと、けしかけてたんだ
ろうな』
『話はそれだけ?』
『麻季だってあのガキ、じゃなかった君の息子の名前から命名された怜菜の娘のことが気
になるだろうと思って電話したんだよ。鑑定結果がそういうことなんで認知はしたけど、
引き取る気はないんだ』
『あたしには関係ない』
『・・・・・・わかったよ。俺だってもう麻季をどうこうしようなんて思ってないよ。もう昔の
大学時代の女なんてこりごりだ。こんなことなら身近なオケの中で調達しておけばよかっ
たよ。もう連絡なんかしねえよ。じゃあな』
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