過去ログ - ビッチ・2
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89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/03/06(水) 23:00:20.46 ID:/geWKqfJo

 次の日は土曜日だった。僕は佐々木ピアノ教室の前で午前のレッスンの終了時間を待っ
ていた。堂々と入り口前で待っていようかとも考えたけど、奈緒より先に有希に顔をあわ
せるのが恐かったので、僕は最初と同じく少し離れた場所で入り口を覗うようにして奈緒
が出てくるのを待っていた。今日も冬の曇り空が広がり肌寒い。早めに着いてしまったせ
いで体が冷え切っている。

 やがてようやく扉が外側に開き、女の子たちが固まって教室の外に出てきた。それはい
つ見ても華やかな光景だった。最初に出てきた一団の子たちの中には奈緒の姿も有希の姿
もない。それでも間断なく教室から吐き出される生徒たちをじっと見守っていると、やが
てその中に奈緒の姿が見えた。

 奈緒は前にも見かけた眼鏡をかけた高校生の男と何か話しながら教室の外に出てきた。
幸いにも有希の姿はまだない。奈緒が僕の姿を探すようならわかりやすい場所に移動して
姿を見せようと思ったのだけど、奈緒は周囲を見渡したりしなかった。彼女は一緒にいる
男が自分に話しかける言葉に笑顔で応えていて、僕のことを探す素振りさえない。

 そういう奈緒の笑顔はすごく可愛らしかったけど、今の僕にはそんなことはどうでもよ
かった。そのときの僕は心底から腹を立てていたのだ。僕は寂しそうな様子を隠そうと笑
顔で送り出してくれた明日香を放ってここに来ている。妹との約束を優先したためだ。そ
れなのにその妹の反応はどうだ。迎えに来いって高飛車に僕に要求したくせに、その兄を
探すようもなく男といちゃいちゃしている。

 大人気ないと思いつつ僕は奈緒の前に姿を晒した。さすがに奈緒は僕に気がついたよう
だけど、それでも彼女はすぐに僕の方に来るでもなく男と話を続けた。それでも僕は奈緒
と一瞬だけ視線を合わせることができた。彼女はすぐに僕から目を逸らしたけど、これで
僕が約束を守ったことは彼女にもわかったはずだ。これ以上、奈緒からこんな態度を取ら
れるいわれはない。

 僕は踵を返して駅に向かって一人で戻り始めた。

 ・・・・・・何かこういうことが前にもあった気がする。さっきの奈緒の様子に苛立ちながら
も僕は思った。あれは確か有希とメアドを交換したことに奈緒が嫉妬したときのことだ。
あのときもわざと僕の側に近寄らないようにしていた奈緒を置いて、僕は一人で駅に向か
っていたのだ。あのときは結局改札の前で、背後から駆け寄ってきた奈緒に抱きつかれて
謝罪された。でも今日は違うみたいで、背後には自分の態度を後悔して駆け寄ってくる奈
緒の気配はしない。それならそれでいいと僕は思った。どうせ今日で迎えは最後にしよう
と奈緒に言う予定だったのだし。

 そう思いながら駅の改札まで来てしまった僕が改札をくぐろうとしたとき、携帯が鳴っ
た。メールだ。

『すぐに行くから前に入ったファミレスで待ってて』

 短い無愛想なメールは奈緒からだった。

 ふざけるな。僕はそう思ったけど、どいうわけか数分後には僕はファミレスの席に収ま
っていた。結局、奈緒がそこに姿を現したのは三十分も過ぎたときだった。


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