過去ログ - 京太郎「もつものと、もたざるもの」
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957: ◆CwzTH05pAY[saga]
2013/04/11(木) 00:40:39.02 ID:4Hfa2lmyo
そんな沈黙の中、先ほどまで昼のドラマを映していた喫茶店内のテレビのチャンネルが他の客によって変えられ昼のニュース番組に変えられた。
そこでは和が三冠を達成したことが取り上げられていた。

「和、凄いですね」

「ん? あぁ。そうじゃな」

ぽつりと呟いた京太郎の言葉にまこは若干戸惑いながら返事を返す。
京太郎はどこか遠くにあるものを見るようにテレビの画面を見つめながら口を開いた。

「一緒に麻雀打ってた時期があるとか、正直信じられないです」

「何を言う。半年間だけとはいえ、京太郎は清澄の麻雀部員じゃった。そのことに間違いはない」

「そう、ですよね……」

再び沈黙。
テレビの画面は政治家の不祥事についてのニュースに変わっていたが、それでも京太郎はテレビに視線を向けたままだった。
そんな様子を痛ましげな顔で見つめたまこは若干の迷いを見せながらも京太郎に問いかけた。

「なぁ、京太郎」

「何ですか?」

「麻雀部辞めたことを、今はどう思っとる?」

「どう、とは?」

「間違ってなかったと今でも思うのか。それとも……」

まこはそれ以上言わなかったが京太郎は言いたいことをなんとなく察していた。
京太郎は少し考え込み、若干言いにくそうに口を開いた。

「正直、少し後悔してます」

「そうか」

「最初は全く後悔してませんでした。解放されたって、喜びしかなかったんです。でも」

表情を変えず真剣に聞くまこの視線が辛くて、京太郎は視線を下げた。

「竹井先輩や和がプロに行って強い連中の中で必死に戦っているのを見ると、少しずつ考えが変わっていきました」

テレビで初めて久を見た時の感情は京太郎は今でも覚えている。
その日、徹麻明けに自宅に帰った時、気だるい体を引きずりながらテレビをつけると久が対局している姿が映った。
並居るプロに翻弄され、あの久が苦しそうな表情を浮かべながら必死に闘っていた。
それを見たとき、京太郎の心に初めて後悔の念が生まれた。

「プロの中で必死にトップを目指して戦い続けている中、俺は結局麻雀が捨てられなくて生活のために目の前の100円を拾う麻雀をしてる」

そう話ながら京太郎は、先ほど行った3確アガリを思い出す。
こうやって口に出して自分の気持ちを吐露して、ようやく分かった。
和と比較したとき余りにも惨めで、小さくて、そんな気持ちから罪悪感や後ろめたさを感じていたのだと。

「そう考えると、どうしても思っちゃうんです。あの時、麻雀から逃げ出さずに歯を食いしばって必死に戦い続けていれば」

自嘲気味に笑いながら京太郎は温くなったコーヒーを一気に流し込んだ。

「何か、違う未来があったんじゃないかって。……烏滸がましい話ですけど、俺だけじゃなくて、皆も」



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