過去ログ - 1~2レスで終わるSSを淡々と書く
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16:1/1[sage saga]
2013/03/15(金) 18:30:20.10 ID:JLyRmb8y0
「本当だよ?ほら、舐めてみて」
彼女は甘ったるい声でそう囁いた。
秋の夕暮れの日差しと相まってその表情は官能的に、恍惚として見えた。
人差し指を恐る恐る口に含んでみる。女の子の指を舐めるのは生まれて初めてだ。
「ね?本当に甘いでしょ」
彼女は先ほどよりちょっと嬉しそうに、変わらない甘い声で言う。
確かに、彼女の指は甘かった。
例えるならコンペイトウ、いや角砂糖かハチミツ、混じりけのない砂糖の甘さ、
彼女の指は砂糖でできているかのように甘く、魅惑的な香りを放っていた。
「これは誰にも言っちゃだめだからね。二人だけの秘密」
そういって彼女は意気揚々と階段を降りて行く。
私は、どうしたらいいか分からず、不思議な羞恥心を悟られないように彼女を追いかけた。
その後、何度か彼女の家に遊びに行ったことがある。
彼女の家は裕福らしく、豪邸と言えるほど立派な建物だった。
私は彼女の部屋に行き、自慢だという紅茶を飲まされた。
「お味はどう?」
その紅茶は今まで飲んだことのない味わいだった。
普段紅茶を飲まない私でもつい目を見開いてため息をついてしてしまうほどの味であった。
御代わりを頼むと、意気揚々と彼女はポットに紅茶を入れ、爪をぱちんと切り、カップにひとかけら入れて私に差し出した。
砂糖よりも甘い彼女の爪、私はドキドキしながら言い表せない不安を感じてしまった。
それから、私は彼女と距離を置くようになった。
これと言って理由はないのだが、強いて言えば私の中に訳の分からない感情があって、
それは恋とも呼べるような、けれど歪んでしまっているような。それが怖かったのだ。
時々、彼女を廊下で見かけることもあったが、目を合わせることなく通り過ぎた。
彼女の周りはいつも甘い匂いが漂っていて、学校中で人気者になっているようであった。
沢山の男の子に告白され、沢山の友達ができて、彼女は毎日楽しそうに笑っていたように思える。
時は流れ、新学期が訪れた。
温かい季節が来て、私は新しいクラスになった。
クラス表には彼女の名前があり、これからは徐々に関係を取り戻せたらいいなとぼんやりと思っていた。
新しいクラスの担任が鏡台に着いて一言
「実は、残念なお知らせがあります…」
彼女は、新学期になって失踪してしまったという。
私はとっさにその理由が分かった。
彼女は春の暖かさに溶けてしまったのだ。
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