過去ログ - 1~2レスで終わるSSを淡々と書く
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18:1/1[sage saga]
2013/03/15(金) 18:33:39.13 ID:JLyRmb8y0
雪の上を走る鉄道。じいちゃんは死ぬ間際までずっと乗りたいと言っていた。

とりあえず寒い。手がガチガチに固まってスルメになってしまいそうだ。
そうはいっても仕事はしなければいけない。

「おい。どうしてこんなに遅れた?」

「仕方がないだろう。今年は暖冬で雪が少ない」

気味の悪い仮面のような表情を浮かべながら、車掌は頭だけ出し答えた。
予定では21時30分に到着する予定だったが、だいぶ遅れて現在22時38分。
これは後々上司から面倒な説教を浴びせられるパターンだ、畜生。

僕の生まれ育った場所は雪が一切降らない土地で、一年中草木が茂っている穏やかなところだった。
故郷を飛び出し、子供のころから夢だった鉄道関係の仕事に就いたはいいが、
担当されたのは島の最北端。雪で覆われた駅の管理人であった。

一年中草木を愛していた人間が、一年中雪と格闘できるかと言えばはっきり言って自信がなかった。
すぐにでも辞めてやろうかと思ったが、じいちゃんの言葉が僕を奮い立たせた。

「一度決めたことから逃げたしちゃいかん」

両親が嫌いだった僕は、最後までじいちゃんのことが大好きだった。
それはいまでも変わらず、僕を支えてくれている。


先ほどからホームの端っこで少女が電車を待ち続けている。
黒い髪を雪とともになびかせて遠くを見ているかのようだった。
私は何度か声をかけてみたのだが返事はいつも同じ

「私は、ここで待ちますから」

なにかこだわりがあるのだろうか。
私は頑なに動こうとしない彼女を説得させるだけの気力もなかったのでさっさと事務所に戻りストーブに薪を放り込んだ。

列車が再び動き出すまであと15分ほどかかる。
なにせ雪の上を走る特別列車だ、相当なエネルギーを使うのだろう。

しばらく時間をかけて固まった指先を温めほぐした。
気持ちに余裕が出てくると先ほどの女の子のことが気になり始め、窓から様子をうかがう。
先ほどと同じように、どこか遠くを見つめているようだ。

僕はアツアツのコーヒーをカップ二つ分淹れ、自分の分を一口すすりながら彼女に近づいた。

「いかがです。温まりますよ」

彼女は一瞬拒むような表情をしたが、そっと細い指を向けてカップを受け取った。

雪は音を吸収するというが、それは少し違う。雪は音を消してしまうのだ。
彼女からは音とともになにか人間らしい空気が漂ってこなかった。
それは表情やしぐさなどの類ではなく、雰囲気。漂う温度が雪と同じような、そんな気がした。

「おいしい…」

彼女の頬が少し赤みを帯びる。
僕はいろいろなことを訪ねたかったが、頭の中でその言葉を消した。
彼女の物語に私は登場してはいけないと咄嗟に思った。

誰かがあの女の子の物語を語ってくれる時を、私は駅で待ち続けようと思う。





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