過去ログ - 1~2レスで終わるSSを淡々と書く
1- 20
20:1/2[sage saga]
2013/03/15(金) 18:39:30.33 ID:JLyRmb8y0

僕が天使を見つけたのは、春の雨に濡れた路地でのことだった。

自分の家に食料がなくなったことに気づき、一週間ぶりに外に出かけた日の帰り道だった。
両手に大量のカップラーメンが入ったコンビニ袋を抱え、
今日は何をして時間をつぶそうか、明日は何をして過ごそうか、などニート特有の堕落的な考え事をしていた。

「あ。」

そうだ。子供のころ挫折してしまったゲームをしよう、
我ながらいい暇つぶしを見つけたと感心してしまう。そんなことはどうでもよい。
僕は電柱の影でモゾモゾと動く物体を見つけた。

「……」

前にネットで見た小説を思い出した。
それは拾ったネコが擬人化し、どたばたのコメディーを繰り広げ、
結果的ににゃんにゃんするという、どこにでもある妄想小説だった気がする。
エロの描写がやけに上手く、2回くらい抜いたと思う。

僕はにゃんにゃんという表現はもう死語であるという自虐的ツッコミを無視しつつ、横目でその黒い物体をちらりと見た。

「……」

猫ではない。いや、むしろ猫であったほうが比較的対処できたと思う。
普段から外に出ず、ネットやゲームなど二次元に一週間どっぷりと浸かると、
現実に起こる非日常的な現象と鉢合わせになった際、脳みそが処理できなくなり動けなくなるということ知ったのもこの時が初めてだった。


体が動かないので、ばっちりと目が合う。
長いまつ毛がピクピクと上下に動いて、その奥の瞳を遮っている。
猫ではない。少女である。これこそ漫画に出てくるようなシュチュエイション。

普通であれば、ここで優しく手を取りハニカミながら「家の家においでよ」と囁くのが正解なのであろう。
しかも、一見アイドルのような顔立ち、いわゆる美少女である。

雨上がりなので服と髪がしっとりと濡れている。
滴る水分によって露骨に主張されたボディラインとおっぱいラインが艶めかしい。
肩まで伸びた髪の毛を伝い落ちる水滴が、少女の首筋を撫でている。
まるで映画みたいなシュチュエイションって歌詞の歌があったような気がする。

そんなことはどうでもいい。

千載一遇のチャンスとはこのことだ。
千年前のご先祖様もこんなことになるとは思ってもみなかったであろう。僕は期待で胸がいっぱいになった。
いっぱいになりすぎたせいもあったのだろうか、僕は両手でプルプルと震えるコンビニ袋を強く握り返して、その場を走り去った。



ご先祖様、僕にはちょっと荷が重すぎたようです。
玄関で息を整えながら、僕は必死に現実と向き合っていた。

一週間誰とも会話をしていなかった人間に、
いや一般的常識を持ち合わせた人間が、路上でひとりうずくまっている女性を見て気軽に声をかけられるだろうか。

この20年間。冷たい社会の風に翻弄され続けた僕にはわかる。
きっと僕が路上で物欲しそうな顔をして待ち続けたとしても、誰も手を差しのばしてくれる人はいない。
むしろ警察という法的な処置を受けるに決まっている。

いや、まてよ。
この場合、一人でうずくまる女性を助けないほうが常識的に考えて駄目なのではないか。
僕の場合はそりゃ声はかからないだろう。しかし、あれは麗しき女性。
一般的紳士ならば、一言大丈夫ですかと声をかけるべきではなかったのか。

そう考えてみると、自分が最低な人間だと思えてくる。
なにもしない結果、社会不適合者として地位を獲得した僕だが、
おばあちゃんから言われ続けてきた「本当は優しい」という唯一の長所がなくなろうとしているのではないか。

これ以上、僕から誇る部分を削り取られては堪ったものではない。
生きる粗大ゴミになってしまう。

僕は、焦りからか大量のカップ麺をなぜか冷蔵庫に押し込み、先ほどの捨て猫(仮)のもとへと再び走り出したのであった。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
32Res/30.13 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice