過去ログ - 智「さあ、おとぎ話をはじめよう」 Re:3
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964:名無しNIPPER[saga]
2015/02/21(土) 01:00:27.52 ID:gF2xKrflo
 僕の目の前では小さな少女が一心不乱にボウルの中身をゴムベラでかき混ぜている。
 何も特別な作業ではない。ただ、今回何を作るにも絶対必要なものであることには間違いないけれど。
 後ろから覗き込むと、若干手元が不安定ながらも彼女はしっかりとかき混ぜてそれを溶かすことができていた。

智「うん、そんなものでいいんじゃない?」

 はっ、としたように顔をあげて僕の方をみる彼女はとても可愛い。
 僕は苦笑交じりの微笑みを浮かべつつ続けた。

智「だって、玉ねぎを飴色になるまで炒める〜とかじゃないし、最終的な形態はそれだからね」

 それを指でほんの少しだけすくって、その指を自分の口の中にいれる。
 温かくて、甘い。これをホットミルクと混ぜるだけで簡単なホットドリンクは出来上がりだ。
 まぁ、そんな簡単なものを彼女は渡すつもりなんてないだろうけれど。

智「次はそこのバターを入れてしっかりと混ぜてね。ああ、もう湯煎はいいから、お湯からボウルをあげていいよ」

 僕の言葉にお湯からボウルをあげて布巾の上に置き、そして台所をキョロキョロを見渡す。
 そして見つけたバターを入れてまたかき混ぜ始めるのを尻目に、僕は冷蔵庫からもう既に白身と分けた卵黄を取り出した。
 これと一緒に混ぜるグラニュー糖や、これから使う薄力粉の分量だって量ってあるし、準備は万端だ。
 ……流石に、ちょっと過保護すぎるかな? レシピさえ見ればきっと誰でも作れるものだろうし。
 まぁでも、お菓子作りってちょっとした失敗が味に影響する。それはどんな料理だって同じだけど、出来るなら彼女には成功して笑顔を見せてほしい。
 ……多分、それが僕に向けられるってことはないんだろうけど。

「――――ねぇ。聞いてる?」

智「え? あっ、ごめん聞いてなかった。なんて言ったの?」

 少女はこちらに顔を向けずに、しかし恐らく顔を赤らめているであろうことはわかる。
 そしてもう一度、ゆっくりと彼女――夜子は口を開いた。

夜子「五樹は、私のチョコ……喜んでくれるかな?」

 王様は、いつもと同じくあまり表情を動かさずに、『貰っておこう』とでもいうのだろう。
 どちらかと言えばイケメンなあの男の事だ。チョコなんて貰い慣れているだろうから。

智「――うん。喜ぶよ、きっと」

 それでも僕は、そう答える。
 その後に続く、僕ならきっとそうだからという言葉は呑み込んで。


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