過去ログ - 咲の登場人物であるところの染谷まこ及び他の人物達に関する一千一秒物語
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9: ◆EUySvhhUdO5I[saga]
2013/04/23(火) 20:27:38.83 ID:lTJijou3o
@そういう話 1/2

蝉の声も日に日に減っていき、夏の終わりを感じるようになった、ある日曜日。
僕が市街地を歩いていると、前方に染谷先輩を見かけた。
嬉しくなって声をかけようとして、染谷先輩の隣に誰かがいるのに気付いた。
短めの金髪。
すらりとした長身。
男の僕から見ても格好良い男。
友達だろうか。
僕が声をかけるのを躊躇している目の前で、その男が染谷先輩の肩を抱く。
染谷先輩はと見れば、優しく笑いながらされるがままとなっている。
それを見た瞬間に、何とも言えない気持ちが沸き起こり、身体を動かすことすらままならなくなった。

その日の晩、布団の中で大いに悩んだ。
僕は常日頃から染谷先輩が幸せであれば隣にいるのは僕じゃなくても良いと公言して憚らなかった。
今日見かけた染谷先輩はとても幸せそうであった。
けれど、どうしたことだろう。
僕はそれを喜ぶことができないのだ。
心に何かが絡まったような、あるいは心そのものが絡まっているかのような気分で、よく眠れないまま朝となった。

放課後、いつも通り染谷先輩に声をかけようとしても上手くいかなかった。
僕の不審な様子に染谷先輩も気づいたようで、「どうしたんじゃ?」と声をかけてくれたが、何も返すことができなかった。
帰りしなに染谷先輩がもう一度声をかけてくれた。

「今日はどうしたんじゃ?」

やっぱり僕の心は何かが絡まったままで、僕を心配してくれる染谷先輩を見ても胸が苦しいだけだった。
どうしようもなくなった僕は、漏れ出るものをそのまま声にすることにした。

昨日、市街地で染谷先輩を見かけました。

「ふむ? 声をかけてくれても良かったんに」

それで、隣にいた男性の方と親しそうにしてて、肩を抱かれて、染谷先輩は笑ってて、幸せそうで。

「ああ。そういうことか」

染谷先輩は何かに合点が言ったのか、こくこくと頷いていた。
「あれはじゃな」と何かを言おうとする染谷先輩を遮って僕は続ける。

僕が一番衝撃を受けたのは、染谷先輩が幸せそうに笑っているのを見ても、少しも嬉しくなれなかったことなんです。
僕は染谷先輩が、染谷先輩さえが幸せであればそれで良いと思っていたはずなのに、その気持ちは嘘だったんです。

「いや、だからそれはじゃな」

駄目なんです。
僕はもう、駄目なんです。

そう言い残し、何かを告げようとする染谷先輩から逃げるように帰宅した。


その日以降、僕は染谷先輩から距離を取った。
染谷先輩と話そうとしても、心が絡まったままでは何もできなくなってしまうのだ。
死にそうなほど苦しかったけど何とか耐えた。
染谷先輩は何度も僕に話しかけようとしてくれたけど、いつしかそれもなくなった。

けれど、僕は部活はやめなかった。
麻雀が好きだという理由はあったけれど、それ以上の何かがあったのだと思う。
それが何かは結局最後までわからなかった。

対局に集中していても、周囲の声は僕の耳に届いてしまう。
部員の誰かが染谷先輩と話している。
このままで良いのかと言ったようなことを染谷先輩に問いかけている。
染谷先輩が「もうすぐ大会じゃからのう」と返すと、何かに思い当たったかのように、それもそうですね、と納得していた。


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