過去ログ - モバP「鳩」
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8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/04/29(月) 07:34:28.38 ID:IfvVtyDz0
で、今に至る。彼女は素直にミックスナッツの袋を受け取ると隣のベンチに座り、凛太郎に与え始めた。
先程からないがしろにされつつあった権兵衛の群れは既に別のおばはんの元におり、ターゲッティング
されたおばはんもどうやら本職の飯やりストらしく、異様に皺の寄ったポリ袋からパン屑をつかみ出しては
荒れ狂うゴン蔵の群れに向かってばら撒いていた。俺はカップ酒を飲もうかと思ったが、隣で凛太郎に
豆を与える彼女の、少し気の抜けた様子で歌う童謡を耳にするうち、止めた。

俺は結局焼き鳥にも手を付けず、彼女との会話らしい会話もないままだったが、それも何だか惜しいと
思って別れ際、ミックスナッツの空き袋を彼女から受け取りながら自分の名を告げた。すると彼女も、

「高垣といいます。機会があったら、また」

高垣さん。下の名前が気になるが、初対面でそこまでむんむん押していくのも気が引ける。それより俺は
美人の高垣さんと知り合いになれたのが嬉しく、彼女が苗字だけでも俺に告げる気持ちになったことに
舞い上がっていた。機会があったらまた、なんて次に会う約束めいたものを口にする、彼女のくりっとした
目が白猫のように左右で色の違うことすら、家に帰ってカップ酒を飲みながら思い当たった程だったので
ある。

その日以来、俺は休日ともなればミックスナッツの袋を1つだけ携えて公園に行くようになった。目的は
言うまでもない。高垣さんと、ついでに凛太郎に会おうとしたのである。

でも駄目だった。何度足を運んでも、公園には高垣さんはおろか、凛太郎の姿さえ無かったのである。
権兵衛の群れも、プロ餌やりストのおばはんも居た。高垣さんが居ないのは非常に残念だがまあ、理解
できた。人間生きるためには色々と雑多な要件をこなさなければならず、それがために俺と交わした
会話や、そもそも公園で俺と会ったことすら、移ろう時間の中で流れてしまったのかも知れない。でも
せめて凛太郎、高垣さんと俺を引き合わせてくれた凛太郎には、一度会ってお礼をしたかったのである。



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