380:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/09(日) 09:05:51.85 ID:CY9RELSC0
「―――どうして、こんな結末になっちゃったんだろう」
彼女は涙を堪え、俺に対してそう呟いた。
いまさら、答えなど出ない。悪いのは全て、俺なのだから。
シンデレラガールズ・プロダクションのビルの屋上。俺たちは空を見上げた。
夏を前に吹き抜ける風に頬を撫でられ、こうなった経緯を回想していた。
この就職難の世の中に、社長は俺の情熱を受け入れてくれた。
そしてプロデューサーという職につき、初めて、彼女に出会ったこと。
仕事を重ねるにつれ、俺と彼女は、いつしか恋に落ちていた。そう気付いたこと。
…けれど、幸せは、永劫不変ではないと、気付いたこと。
新設されたばかりのプロダクションに、そうそう仕事など舞い込まない。
俺は日々を営業周りに、彼女はレッスンに費やしていた。
だが、華を咲かせることはなかった。
毎日毎日、懸命に力不足ながら上手くやってきた。そう思っていた。
だが、結果はどうだ。経営難と笑っていられたことも昔のことだ。今はもう。
倒産寸前、プロダクションが入っている階の物品の差し押さえ。銀行からの借金もある。
もう回る首も日々を生きていくだけの金銭もなくなり、アイドルは路頭に迷った。
ある者は他プロダクションに移籍をし、ある者は就職に励んでいた。
…だが、それもきっと、上手くは行かないだろう。
社長は、家の物を売り払い、それで済むと思っていた。
だが、世の中はあまりにも辛辣で、それだけでは収まらなかった。
所有権の差し押さえ。今月で社長は済む家すら失くなってしまう。そう呟いた。
そこから1週間後…社長は虚無感に満たされた家の中心で、柱に輪をかけ、この世を離れた。
千川ちひろは、あるとき既に姿を消していた。
残されたのは人の命を賭してすら残る莫大な借金と、後悔と、怨恨と。
わずかに残っているアイドルも、ついに、昨日ここを去っていってしまった。
俺も何もかもを差し押さえられ、残っているのはついにこの身体のみになっていた。
「君をトップアイドルにする。そう言っていた夢も、叶えてあげられなかったな」
「ねえ、なんで、そういうことを言うの。まだ、やり直せるよ。まだ、間に合う」
「ありがとう。でも、俺はもうダメなんだ。何もかも。みなに顔向けができない」
フェンス1枚越しで、彼女はすぐ近くにいたが、互いの距離は永遠のようであった。
触れ合っても埋まらない絶対的な距離が、俺の決断を確固たるものにした。
そろそろ、夜も深くなる。俺も、あの輝く星の1つになるのだ。
「俺は」
「俺は、君が好きだった」
「ああ、違うな。今でも、愛しているよ」
彼女は一言も声を発さなかった。違う、発せなかった。
流れ落ちる涙を拭っては、流れて。その繰り返し。
それを見て俺も繰り返せたら。そう思った。
「さようなら」
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