307:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/06/06(木) 06:31:09.11 ID:4Z+Lx22no
◇
わたしとシラユキは言葉もかわさずに屋敷に戻った。
ツキは森の奥に逃げ込んだという。まだ、つかまってはいないらしい。
ひとり部屋に戻り、ベッドに寝転がる。それからさっき話した内容を吟味した。
この世界のこと、わたしのこと、シラユキのこと、ツキのこと。
そして自分の記憶にある「現実」のことを考えた。
思い出してみると、それはさほど悪くないように思えた。
ツキがいた。彼の両親は良い人たちだった。わたしにも優しくしてくれた。
それにシラユキが言っていたように、現実には面白い本もあったし、音楽だってあった。
映画だってドラマだって娯楽には事欠かなかった。その中にはいくつか好きなものだってあった。
きっとわたしが知らないだけで、現実にはたくさん、素敵なものや場所があるのだろうと思う。
そして生きてさえいれば、そうしたものを求め、出会い続けることができるのだ。
でも、それだけと言ってしまえば、それだけのことだった。
本も音楽も映画も、実際の境遇からわたしを救ってくれるわけではなかった。
耐える手助けにはなるかもしれない。でもそれだって結局、それだけのものだ。
耐えたあとに何かを残してくれるわけでもなかった。
633Res/436.26 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。