21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/05/30(木) 03:39:38.20 ID:ffHVc6Tm0
 少女――さびしんぼうは、そこでふと、寂しげな表情を浮かべた。 
 懐かしむような。思い出すような。そんな表情だった。 
 しかしその顔は、一瞬で元の笑顔に戻る。 
  
 「――ヒ・ミ・ツ♪ じゃ♪」 
  
 ヒ・ミ・ツのリズムに合わせて指を振るその仕草。 
 心に余裕があるときなら素直に可愛いと思えたかもしれないが、今のやえには神経を逆撫でする以外の意味を持たない行為だった。 
  
 「……出て行け」 
  
 怒りを滲ませながら、出来る限り抑えた口調であることに努める。 
 やり場のない怒りが溜まっていた。 
 休日出勤で休みが潰れたこと、楽しいはずの飲みで幸せについて考えさせられたこと、貴重な睡眠時間がこうしてる間にもどんどん削られていること。 
 そういったものが積み重なって、今にも爆発しそうだった。 
 出来ることならお隣さんへの迷惑なんか何も考えずに大声で叫びたいくらいの気分だ。 
 だけどそんなことするわけにもいかないから、とにかく今はこの変なお客様にお帰り頂くことに全力を注ごう。 
  
 「私が疲れてる? ハッピーにしてあげる? 本当にそう思ってるんだったら、さっさと出て行ってくれ。 
  明日も早いんだからな、こんなことに付き合う時間なんて全然ないんだ」 
 「……仕方ないのう」 
  
 もう少しゴネるかと思いきや、さびしんぼうは驚くほど素直にやえの言葉に頷いた。 
  
 「でもやえちゃんは、必ずさびしんぼうがハッピーにしてあげるからの。次回に乞うご期待じゃ。 
  それじゃあ、シーユーアゲインじゃ!」 
  
 ふわり、とさびしんぼうが跳んだ。と思うと、瞬きする間にその姿は消える。 
 超常現象以外の何物でもないが、この頃にはやえももう受け入れていた――というか、諦めていた。 
 私が幽霊に取り憑かれたというのは、紛れも無い事実なのだということを。 
  
 「でも、ま……今日はとりあえず、寝るか……」 
  
 睡眠時間がいつもより一時間も少なくなってしまったということのほうが、今のやえにとっては問題だったりする。 
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