過去ログ - やえ「おーい、さびしんぼう」
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33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/06/12(水) 08:36:54.66 ID:zQDqzWwOo
 ◇


「……と、いうわけでですな。私も若い頃は相当ヤンチャをしたものですが、とある時に宮沢賢治の『雨ニモマケズ』にいたく感動したわけですな。
 今までは自分は勝手な行いばかりをしてきて周りに迷惑をかけてきたが、賢治の理想であるこの人物像はどうだ。
 己の身を粉にしてでも周りを助け、それでいて評価などされなくてもいいと言っているんですな。
 そういうものにわたしはなりたい。『雨ニモマケズ』の〆となる一文ですが、私もまたそう思ったわけです」

「はい……お気持ちはよく分かります。実際に先生には地域の後進育成のために懸命になっていただいているわけですしね」

「おお、分かってくださいますか! ははは、小走さんはまだお若いのにしっかり地に足を付けて生きていらっしゃるわけですな。
 私があなたくらいの歳のときにはヤンチャばかりで――」


まーた話題が無限ループしてるぞ……と、やえは表情はにこやかなまま心の中で愚痴をこぼす。
かれこれ一時間ほど向こうが喋りっぱなしの状況が続いていた。もちろん商談などこれっぽっちもしていない。
大抵の場合、向こうが話し疲れる頃には気分も良くなってくれているのでそのままトントン拍子に新しい牌や卓の納入日まで決まってしまうからそちらについて心配はしていないのだが……


「そういえば気づきましたかな、こちらのインコには」

「ああ、そういえば先日来たときには見ませんでしたね。最近飼い始めたんですか?」

「ええ。このインコがまた賢くてですなぁ。ほら、このように」


『ア、アメニモ、マケズ、カゼニモマ、ケズ、ユキニモナツノアツサニモ、マケヌ』


「どうです、私が毎朝暗唱している『雨ニモマケズ』を聞くうちに、こいつまで覚えましてな」

「はぁ……すごいもんですねぇ」

「っと、失礼。少々席を外します。いやぁ、歳を取ると近くなって困りますなぁ」


女性の前だというのにデリカシーってもんがないのかコイツは、とやっぱり表情は変えずに、心の中だけで呟いた。
マスターがいなくなってのを確認してから、深く息を吐いた。一時的にとはいえようやく解放されたことで、凄く安らかな気持ちになっていた。


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