過去ログ - モバP「アイドルたちの奇妙なお話」
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6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/05/20(月) 23:46:51.68 ID:I96lWZFz0
部屋に帰り着いて、ようやく本当の意味でほっと一息。ソファに半ば倒れるように座り込み、今日一日の仕事を思い返す。
何ができたか。何ができなかったか。進歩しているのか。がっつりとではなくぼんやりと、そんな風にその日の仕事を
回想する。たいがい疲れきってはいるのだが、久美子はこの時間が好きだった。
充実してるってことだから。そう考えている。疲れきって家に帰ってきても考えてしまうくらいに楽しいし、達成感とか
満足感とか実感できてるってことでしょ。それはとても幸せなことだと、彼女は実感していた。キレイを求め、磨き、それが
確かに結実していっている。それは彼女にとって大きな喜びだった。
「……いけない寝ちゃいそう。最低でもメイクは落とさなきゃ」
まどろみを感じ、無理矢理身を起こす。化粧をしたまま寝るのは言語道断だ。メイク落としを手にいそいそと洗面台へ。
急ぎ気味だったその足はしかし、徐々に鈍くなっていた。洗面台に近づくにつれて。何か、逡巡するように。
「さっきのあれって、なんだったんだろ」
脳裏によぎる、エントランスでの奇妙な出来事。
あの時鏡に映り込んだ、何か。奇怪、と言っても差し支えない、得体の知れない何か。
それは久美子自身でしかあり得ないはずだった、なのに得体の知れない何か。
「……ちょっと疲れてるだけだよね」
かすかに寒気さえ感じながらも、メイクを落とさないわけにもいかないという気持ちが勝ったようで、久美子はきりっと
した顔つきで洗面台へと歩き出した。
洗面台の大きな鏡。意思の固まった久美子はもはや臆することもなく、ずんずんと進んでその前に立ち、真正面から
鏡に向き合う。
そして露骨に安心。何のことはなく、いつも通りの美しいアイドルがそこに映っていた。
「私、きれい……よね?」
確認するように一言、そう呟いた。今まで鏡を見ながらこんなナルシストな台詞を吐くことはなかった久美子だが、なぜか
この時、そうせずにはいられなかった。だが答えを返す者のいないその問いかけは、ひどく虚しく空々しく、久美子の中に響いた。
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