過去ログ - 鷺沢文香エッセイ集『本とアイドルと私』
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198:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:18:50.26 ID:w4dUq9e30
 彼奴こそが、この騒音の主であり、夜明け特有の喧騒を...それは雀の囀りであったり、朝刊太郎の乗るカブのクラッチ音であったり...悉く潰しているのだが、いやなに、そんなに責め立ててはいけない。 これは彼の日々の業務であり、責務なのだ。

 寧ろ、その忠誠心は敬意に値するだろう。何せ毎日のように叩かれ、落とされ、時に洋箪笥に向けて投げつけられても、嫌な顔一つせず持ち主に仕えているのだから。


以下略



199:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:22:01.92 ID:w4dUq9e30
 さて、その主人たる少女、今日は如何様にして彼を止めるのか。そろそろ7分が過ぎようとしていた。10分間鳴り続けると、この目覚ましは勝手に頭上のハンマーを止める仕掛けが施されている。

 つまり、彼女はそれまでに布団から抜け出し、身支度を整え始めないといけない。でないと、寝坊したのかと勘ぐるお節介な隣人が、ずけずけと部屋に入ってくるのだ。




200:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:24:16.95 ID:w4dUq9e30
 ...一人で起きれないなんて、格好がつかないし、決まりが悪い。常日頃そう考えている彼女は、このかしましい家臣と共に毎朝、微睡みの心地良さや、二度寝の誘惑を相手取っている。そうして面子を保ってきたのだ。これまでも、そして恐らく、これからも。





201:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:26:45.17 ID:w4dUq9e30

 ...しかしながら、今日に限って一体どうしたというのか。ベッドの上で、掛布団を頭からすっぽりと被さっている少女からは、一向に動く気配を感じ得ぬ。普段ならとうに目覚ましを手にかけ、背伸びの一つしても良い時分である。

 それが手は疎か、体をピクリとも動かさないのは、どうにも様子がおかしい。...何か病気でも患ったのか、もしくは何処か痛むのだろうか。

以下略



202:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:29:51.01 ID:w4dUq9e30

 それは残り時間1分を切った矢先の出来事であった。ふいに布団から伸びた腕に薙ぎ払われた目覚ましが、鈍い打音と共に、棚から床へと吹っ飛ばされたのである。


 ...そうか、今日は叩き落される日であったか。
以下略



203:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:32:37.42 ID:w4dUq9e30

 ...しかし、何かがおかしい。桃色の繊維の海に投げ出された、これまた同系色をした鉄塊は、先程までとは異なった様相でそこに転がっていた。

 盤面を覆う厚い硝子には、一本の大きな罅が入り、それに沿うようにして長い溝が、鉄製の躯体にくっきりと刻み込まれていた。余りにも不可思議な、全くあり得ないほどの傷跡。

以下略



204:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:38:30.22 ID:w4dUq9e30

 このような珍事を...まだ15にも満たぬ少女が......しかも生身の腕のたった一振りで、起こしたとでもいうのか。...いや、その様な芸当の出来る子では無い。

 それでは何か。全く別の人間...それとも人ですらない何かが、この布団に包まり、息を潜めているとでもいうのか...。

以下略



205:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:41:21.61 ID:w4dUq9e30

 ...成る程。確かにベッドの上にもまた、一種異様な様子である。敷布団の上にある膨らみは異常に大きく、華奢な身体つきの少女では到底足りそうもない程の体積を有している。更に所々から見え隠れする黒茶色の...棘であろうか、明らかに人間の有するものではない。もっと...別の何か......。





206:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:43:52.36 ID:w4dUq9e30

 だがしかし、これは真に奇怪な話であるが、件の少女はそこで眼を開いた。昨晩、自ら潜り込んだこのベッドの上で、間違いなく少女本人の意識が、深い眠りから醒めたのだ。


 ...今、何時だろう? まさか、寝過ごしてはいまいか?
以下略



207:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:47:33.84 ID:w4dUq9e30
 寝起きだからであろうか、自身の身に起こった異変に全く気付かぬ少女は、体を何一つ動かすことなく、視線のみを頭上に置かれた目覚まし時計へと合わせた。

 読者諸君は既に御存知の通りだが、本来そこにあるべきものは、見るも無残な姿形で絨毯の上に転がったままである。

 当然、少女の目先にあるのは、ぽっかりと空いた空間と、そこを取り囲むように配置された縫いぐるみのみであった。だが、さほど当惑した様子ではない。
以下略



208:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:49:54.41 ID:w4dUq9e30

 そう思いながら彼女は上半身を捻り、ベッドの縁から顔を覗かせようとするが、アラララ、どうして上手くいかない。それならば、体全体を駆使すれば良いことだと、今度は反動を付け、床に向かって大きく寝返りを打とうと試みた。


 ...またしても動かすことは叶わなかった。ここいらでようやく、少女は我が身に起こった異変に気付き、訝しみ始めた。よくよく観察すると、体のどこもかしこも...小指の一本でさえ、曲げることが出来ない。金縛りに合うとこのような症状があるが、それとはまた違った、何とも奇妙な感覚...。
以下略



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